キリンとサントリーが破談に その2
今日の報道でさらにキリンとサントリーの交渉の過程の話がいくつか報じられている。
昨日のブログではどちらかというとサントリー側の問題について書いたけど、今日の報道ではキリンの対応の問題点が気になったので、続編ということで。
1.統合比率の問題
ずいぶんと報道されたのでもう寿不動産もすっかり有名になってしまった。
サントリーが非上場で株価が存在しない以上、交渉の事前準備の段階で当然企業価値の算定と統合比率のすり合わせはやっているだろう、と思ったらやはり報道されている。
昨年1月の下交渉の段階では、両社の話し合いでは統合比率は0.78から0.88であり、寿不動産が3分の1超を取ることでコンセンサスがとられていたとのこと。これは重要なポイントだと思う。
サントリーの創業家としては新会社(サリンとかキントリーとかいろいろネタにされてたけど)の3分の1は最低取りたいだろうが、これを実現するには統合比率はどこまで妥協できるのか、計算してみた。
キリンの発行済み株式数は984,508,387。同じくサントリーは687,136,196。もし統合比率が1対1、つまりキリン1株にキントリー1株、サントリー1株にキントリー1株を与えるとして、サントリー分の89.3%は創業家なので、創業家の比率は687,136,196/(687,136,196+984,508,387)×0.893=41.11%となる。3分の1以上だ。
同様に計算して統合比率を下げていくと、1:0.9だと創業家比率が38.58%、1:0.8で35.83%、1:0.7で32.82%、1:0.6で29.52%、1:0.5で25.87%となる。 3分の1超となる33.4%を確保するには、統合比率は1:0.72となる。
1月の下交渉で0.78から0.88ということは0.72を超えているので、寿不動産が3分の1以上持つことを事前合意していたということは、統合比率は0.72以上でなければならない。
これに対して、11月にキリン側が最初に提示した統合比率は1:0.5。つまり最初の提示で約束に反していたということだ。
一方のサントリーは1:0.9を主張したとのこと。両社の規模と収益性を考えて、さらには非上場であるのでディスカウントされるとすると0.9はあり得ないが、まあ交渉の最初のボールとしては当然だろう。
しかしキリンの0.5については、新聞では「交渉上のテクニック」というコメントがあったが、あまりにお粗末だ。サントリーは1に近いだろうし、落とし所は0.72だからそこが中間になるように0.5とふっかける、これが「交渉のテクニック」というのだろうか?
まずはこの日本企業独特の論理的でない「ふっかけて中間に落とす」やり方が今回の決裂の第1原因だろう。
2.サイレントマジョリティ
もう1点、下交渉時に合意していたこととして、サントリーの大株主は経営に口出しをしないということが書かれている。つまりキリンとしては、サントリーの創業家には昔の持ち合い株主のように「物言わない株主」つまりサイレントマジョリティとしての役割を期待していたとのことだ。1月にサントリー側が大株主の権利を確認したところ意見が分かれたとのことなので、サントリーとしては「そうはいっても何かおかしければ物は言う」権利は確保したかったのだろう。
これは株主としては当然のことだ。完全に口出しをしない大株主を持とうと考える方がおかしいと思う。
下交渉上時に仮にキリンの考えるような合意があったにせよ、時系列からいうと統合比率の合意を最初に破ったのはキリンであり、サントリーが態度を硬化させたとしてもそれも当然のことだ。
ということで、交渉の経緯という点ではキリンが大きく戦術を誤ったということができるだろう。もしくは詳細に企業価値を計算してみるとどうやっても0.72の根拠が作れなかったとすると、下交渉時の企業価値評価が完全に間違っていたということかもしれない。
いずれにしても、タイミングの悪いことに昨年よりは今の方が両社とも業績は悪くない。両社とも海外にMA先を求めるというようなコメントをしているが、現在の状況は逆で、巨大化した海外大手がアジア市場にターゲットを定める時が来ると、キリンでもサントリーでも簡単に買収するだけの力を持っている。どこを買おうか考える前に、どこかに買われないように対策を打つ方が先かもしれないなあ。
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