書籍・雑誌

グローバル・マインド(藤井清孝著)を読んで考える

最近スキマ時間を勉強に充てることが多いせいか、まとまった読書をなかなかできないでいる。同時並行で3~4冊くらいじりじり読むことが多い。
かといって新書を買っても、あまりに内容が薄いので15分くらいで読んでしまう。

こういう状態が続くと、禁断症状のように1冊の本を続けて読みたくなる衝動にかられるのだが、昨日がそれだった。書店で手に取ったのがタイトルの本。マッキンゼーの日本創立期に新卒で入り、その後ファーストボストンなどを転々として、SAP、ルイヴィトンの日本法人の社長をやった人物だ。
先週、会社の会議に自分の勤める会社のコンサルティングをやっている大前研一氏が来て、生で初めて話を聞いたのを書店で思い出したのだが、今さら大前本でもないだろうということで、前職の元上司のかつての上司である著者のことを思い出して買ってみた。

1時間ちょっとで読み終わったが、ところどころ面白いなーという点があったのでまとめておこうと。

1.日本人は正解のない問題に弱い
(藤井氏)
日本人は各論に強い。正解らしきものが存在していそうなテーマが与えられると具体的に1つ1つの課題をこなして正解を見つける。しかし明らかな正解がない場合は、自分と違う意見のあげ足とりをする。例えば重箱の隅をつつくような議論で自分だけ知っている細かい裏話の知識をひけらかしたり、鬼の首をとったように物事の例外を見つけたりする。
しかし、全体最適をにらみながら、新しい大きな構想を練ったり、個々の事象の底に流れる大きな構造的な力を見出すのは苦手である・・・・・

自分は昨年まで外資系の会社にいて、今は正反対にコテコテの日本企業にいるのだが、全くこの意見に同感だ。会議などをやると、答えが簡単に見つかる問題はみんな積極的に意見を出す。一方、難しい問題になると、とたんにしーんとなる。そんなときに誰かが何かを言うとあげ足を取られて終るか、逆に何の意見も出ずにその1人の意見で決まってしまう。つまり、簡単な問題に対しては時間をかけ、難しい問題には時間をかけていないのだ。
著者はその原因を、正解を出すことばかり教える教育にあるとしているが、どうだろう。
確かに「答えは1つある」と教えられてきているので、てっとりばやく答えを求めようという傾向はあるだろう。書店に行くと「1分でわかる」とかそんなタイトルの仕事術やノウハウ本がたくさん並んでいるし。
現実のビジネスの世界には正解のない問題ばかりだし、そもそも「問題」が何かすらわからないことが多い。自分で問題を見つけ、自分なりの答えを論理的に出す。違っているようなら修正する。そんな姿勢が必要なのだろう。

2.社長に必要な能力
(藤井氏)
Consistency(一貫性)とPersistency(執念)。軸のぶれないメッセージを繰り返し社員に叩き込む。その執念は事業に対する熱意からくるものだ・・・

これも同感。外国人社長の場合は、近くで見ていると一貫性=会社にとって良いことかどうか、この軸で一貫している人が多いように思う。また執念は、事業に対する熱意もあるが、一種の「ゲーム感覚」もあると思う。ゲームというと日本人には「遊び」というイメージがあるが、英語のgameは「持っている能力を全て発揮する戦い」というニュアンスがある。外国人社長にとって仕事はgame以上のものでも以下のものでもない。

3.特に日本法人の社長に求められること
(藤井氏)
本社への出張や深夜のテレカンなど、体力的にタフであること。そして本社は言葉の問題から自分自身で市場状況の裏を取れないので、膨大な説明責任が求められる。

そう、外資系の日本人社長もそうだけど、グローバル企業のトップマネジメントはみなタフだ。0泊3日のフランス出張で日本に着いたら夜に米国なんてのも見たことがある。そして程度に差こそあれ、日本市場がいかに「特殊か」を本社に説明することに追われている。

4.日本人は「論理的思考力」を勘違いしている
(藤井氏)
日本人が論理的だと思っていることが英語では論理的と思われないことが多い。
例えば成田エクスプレスのアナウンス。
「成田空港には第2ターミナル駅と終点成田空港駅があります。お間違えのないように、自分の航空会社がある駅で降車願います」
これは日本語だと違和感がないが、英語だとジョークにしか聞こえない。自分の航空会社のない駅で降りる人はいない。つまりどの駅にどの航空会社があるかを言わなければアナウンスに全く価値はない。
日本人の論理力は論理の流れの完結性だけを重視し、論理の説得性の視点で見ていない。つまりx+y=zの論理を立てられるかが問題なのではなく、それをもって人を説得し、動かせるからこそ価値があることを理解しなければならない。

これはちょっと笑ってしまった。しかしこれは日本人特有ということではないかもしれない。ロジカル・シンキングを本を読んで身につけるとこういうことになるだろう。一方でビジネススクールで身につけるロジカル・シンキングはあくまで議論の相手を納得させるためのものなので、こういう間違った理解はしないと思う。

以上が主に面白かった点であるが、読み終わって何となく腹に落ちない部分がある。
この本では外資系企業での勤務経験から、日本人の習慣、足りないところなどは非常に鋭いと思う。一方で社長として何を成し遂げたのか、というと今一つ印象に残らない。SAPやルイヴィトンが今どんな状況かを考えてみても、本当に社長として実績を上げたのかどうかはわからないんじゃないだろうか。

これは、コンサルタントから事業会社に転身した人にありがちなケースかもしれない。
つまり実務経験なしに事業会社のマネジメントに入った人は、どうも事業会社では「口ばかりで実行力がない」という評判の人が多いように思う。前職でもそうだし、今の会社でもそうだ。
彼らはビジネス上の問題点を抽出して、その解決案をまとめ、さらにわかりやすく人に伝えることにおいては非常に優れている。これは社長にとって当然求められる能力だが、さらに社長にはそれを執念深く実行することが求められる。この能力がコンサルタント出身のマネジメント層に備わっているかいないかで、事業会社でも成功するかどうかが分かれるのだろう。
もしうまくいかない場合は、彼らは「卒業」と称してキャリアをリセットするのだ。まるで1つのコンサルティングのプロジェクトが終わって、次のクライアントとの仕事に移るように・・・

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最後の授業

自分は2年間、ビジネススクールに通っていた。そこは大学とは異なり、自ら面倒な選択をして自分を鍛えよう、という意志を持った人間の集まりだった。
毎日ケースを読み、問題を整理して解決策を考え、整理するのに足りない理論面は自分で読み込み、授業でディスカッションをしながら頭をフル回転させる、その連続だった。
それほど面白くもない授業もあるが、教授も熱意を持ってのめり込み、まさに毎時間が真剣勝負、というような授業は、本当に終わるのが惜しかった。
最後の授業では、自分の人生談を語る人、我々へのエールを語る人、その科目のエッセンスを一言で言う人、さまざまだった。マーケティングの教授の最後のコメントは、「マーケティングはロジックだということがわかっただろうか。全ての要素が論理的に矛盾していないマーケティングプランでさえ、成功するかはわからない。ただ言えるのは、プランの上でロジカルでないものは実行しても必ず失敗する。」 ファイナンスの教授は「結局ファイナンスなんていい加減なものです。」 うーん、面白かったし、社会人に復帰した数年後の今でもなお納得する。
2年生の時の証券理論の先生はさんざん最新の理論を叩き込んだ後、最後に生徒全員に「幸福論」という哲学書をプレゼントして、「ビジネススクールは別に最新の理論を学ぶところではない。そんなものはすぐに古くなる。ましてやMBAなんていうタイトルのためでもない。これからどのような困難なことが起きてもあきらめずに解決しようという姿勢。自らを奮い立たせる”Attitude”を身につけるところだったということだ」と締めくくった。
こういうのはどこでもあるようで、ハーバード・ビジネススクールではこの「最終講義」を集めた本も出ていたりする。(「ハーバードからの贈り物」by デイジー・ウェイドマン)

さて、本題は「最後の授業」という1冊の本。最近ネットでも話題になっているので知っている人も多いだろう。
カーネギーメロン大のランディ・パウシュ教授が、膵臓癌で余命数ヶ月と宣告され、その「最後の授業」をしたときの話だ。本はその後書かれたものなので、まずは実際の授業の模様をYouTubeで見るのがおすすめ。「最後の授業」と入れれば10個くらいのファイルに分かれているのですぐわかるでしょう。なんと日本語字幕つき。もしくはDVDつきの本を買ってDVDをまず見るといいだろう。
彼はまだ40歳代で子供は5歳、2歳、1歳。んー、想像するだけでやりきれない。そして最後の授業は病気の話でも、家族の話でもなく、自分が子供のころから何を夢見て、それをどうやって実現してきたかの話だ。
授業は笑いの中で行われ、最後にこう締めくくられる。
「今日の授業でHead fakeに気づきましたか?」
Head fakeと辞書で引いても出てこない。字幕では「頭のフェイント」と訳されていたが、つまり本人は気づかないままに、その時は気づかないが後になってわかる教え、というような意味だ。
「今日は夢をいかに実現するかについて話をしたのではない。それは逆で、人生を正しく生きていれば、運命は自然と動き出し、夢の方から近づいて来るものだと思う。」
うーん、なるほど、一本取られたなーと思っていたらさらにこう続く。
「それでは2つ目のHead fakeには気づきましたか?」
「それは、この授業は皆さんのためではなく、私の子供のためにしたのです。」
本当にすばらしいエンディングだった。
彼は自分の舞台である「授業」を通じて、今はまだ小さくて自分の想いを伝えられない子供たちに、父親としてタイムカプセルを遺そうとしたのだ。
ガンジーの言葉に"Live as if you were to die tomorrow, learn as if you were to live forever." という言葉がある。
大げさだけど、たまには思い出してせめて反省だけでもしなくちゃ・・・。

<<追悼>>

この記事をアップした2日後、2008年7月25日、パウシュ教授は膵臓癌で亡くなられました。心よりご冥福をお祈りします。

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夫婦げんか

最初に言っておきますが、今夫婦げんかをしているわけでも何でもないですので・・・Harvard Business Reviewの8月号に、「パートナーシップの心理学(35年、3000組の夫婦の分析に学ぶ)
」という、心理学者ジョン・ゴットマンのインタビューが掲載されている。彼は3000組の夫婦を時系列で調査し、家庭内の人間関係について科学的な研究を重ねてきており、そこから得られる考え方が職場内での人間関係にも当てはあまるのではないか、という記事だ。もっとも本人は「簡単に当てはめて語らないでほしい」と言っているが。

良い関係の夫婦の会話には、特に夫が妻に対し、「それは思いつかなかった」「君が重要だと思うならやってみよう」というように、会話のあちこちに肯定的な表現が振りまかれているそうだ。逆に問題がある夫婦の場合は、「そんなのありえない」「俺に指図するな」など否定的な言葉が多く見られるらしい。つまり、男性が女性からの影響を受け入れることができるかどうか、これが夫婦関係における最大の決め手になるとのことだ。定量的に言うと、これがうまくできな夫婦の81%が自然崩壊するという結果が出ている。

ちなみに夫婦間で口論になるのは何か。ゴットマン氏は2005年の夏に900件の口論について分析しているが、お金、嫁姑問題、というような具体的なお題で口論をしているわけではない。口論の大部分は・・・「けんかの仕方」に関するものだったそうだ。
例えば夫がテレビのチャンネルを次々に変えていき、それに対して妻が「ちょっとその番組つけておいて。面白いから」と言う。すると夫は「うん、けど他にどんなのをやっているか確認を」と言ってリモコンをいじりつづける。妻が文句を言い続けるので、夫は「わかりましたよ」と言ってリモコンを妻に渡す。すると妻が怒りだし、「そのわかりましたって言い方が気に障る」といい、夫が「お前はいつだって自分の思い通りにならなきゃいられないのさ」と応酬する、といった具合である。
うーん、つまらん・・・と思ってしまうけど、まあそんなもんだろうか。わが家ではないなあ。
こうした問題が意外に面倒なのは、正面からの修復法がないことだ。後から真面目に「あのリモコンの件を話し合おう」ということには絶対にならない。ひょんなことから仲直りをするしかないが、その「ひょんなこと」が生まれなければ意外に溝は深くなる。

ゴットマン氏いわく、人間関係で注意すべきことは「あら捜し」、「自己防衛」、「拒絶」、「軽蔑」とのこと。特に軽蔑は嫌悪感を伝えて人間関係を壊すので、最も良くないそうだ。
うーん、今日の話におちはありません。ストレートに面白い研究だなーと思ったのでまとめてみました。

そういえば、昨年末頃、iPhoneの話を書いてから半年。予想に反してまずSoftbankから出ることになり、いよいよ金曜日発売。NYでは早くも並び始めているようだけど・・・ 自分は何も考えずに発表直後に仮予約を入れました。まだ入荷台数が確定せず、どうなることやらわかりませんが。意外に大量入荷するという説と、1店舗に数台という説が入り乱れているようです。Softbankとしては当日大行列になって話題になりつつも、「どんなものだかよくわからない」うちに大量販売してしまうのが良いだろうから、ぎりぎりまで情報は出さずに行列を作らせてマスコミに宣伝させるんだろう。はたして「ワンセグのついていない」「意外にランニングコストのかかる」携帯が売れるのか?ipodユーザーが買うのか、新規ipodユーザーが買うのか?年末くらいには結果が出るんだろう。

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3年で辞めた若者はどこへ行ったのか

書店で、城繁幸著「3年で辞めた若者はどこへ行ったのか」を見かけて、特に関心もなかったけど試しに読んでみた。著者は富士通の人事を退職して「内側から見た富士通・成果主義の崩壊」を出版し、話題になった人。こんな内部告発を本にしてしまっては、もうこれで食べていくしかないだろうな、と思っていたらその後は「人事コンサル」として本を書いたり、講演をしているようだ。そして近年、「若者はなぜ3年で辞めるのか」が再度ベストセラーになった。

富士通の本を出すときも「知ってしまった以上、言わないとだめだと思った」と言っていたが、何というか子供っぽいことばかり言う人だなーという印象がある。そういう意味で、最近どんな本を書いているんだろう、と思って買ったわけだ。新書だから1時間あれば読めるし。

内容は会社をすぐに辞めた若者のその後のインタビューを脚色して並べている感じ。言っていることは・・・

1.会社員は皆、1度就職したら給料が安くても、拘束時間が長くても、文句を言わずに退職まで会社にぶらさがる。=これを「昭和的価値観」と名づける。

2.そんな人たちを見て、自分の将来の姿に絶望感をいだいた若者は、「昭和的価値観」にとらわれず、3年以内に会社に見切りをつける。

3.その後彼らは「やはり辞めてよかった」と言っている。

4.ということで「昭和的価値観」の人達は最悪だ。

まあ、こんなところだろう。別に目新しいことが書いてあるわけでもなく、全く反論はないのだが、どうも彼の主張には同意できない。新卒で入社した会社を3年で辞めることが成功の人もいるだろうが、そうではない人もたくさんいると思う。

■ 新卒3年で辞めることに対する反論

3年で仕事の適性が本当にわかるのだろうか?自分のことを思い返しても、3年というのは自分の欠点、問題点に気づくか気づかないか微妙なタイミングだろう。つまり3年で辞める人の中には、最初の壁にぶちあたる(もしくは壁があると気づく)前に辞めてしまう人もいるだろう。

彼らは「この仕事は、自分が全力を出す価値のない仕事だ」と考えるのだろう。しかし本当にそうなのか。全力を出すこと自体、自分にはできると思っているのだろうか?もちろん全力を出すことができる人もいる。そういう人は場所を変えて、成功することもあるだろう。しかし、全力を出すことができない人もいる。そういう人は、場所を変えてもまた場所のせいにするだけだ。

仕事をするにあたって、個人の能力差(いわゆる地頭)の差は確かにあると思う。極端な例だと、覚えたくなくても1度見た数字を忘れないという人は確かにいる。まあそんな人は世界に一握りであって、大多数は小さな差の中に収まっている。その能力の差よりも大きいのは「全力を出し切れるかどうか」の差だと思う。それに気づかず、全力を出す前に「全力を出す価値がない」と判断して仕事を変えるのは、ちょっともったいないかな、と思う。もちろん、全力を出せる人が結果的に早めに決断する、ということであれば賛成だ。

■ この本に対する感想

1.どうも論理的に抜けがありすぎる。また言葉も「絶対に」「完全に」「~だけ」というような口調だが、根拠がわからない。なので、やはり子供っぽい印象が残る。自分にその点を批評するだけの論理力もないから、この点はこれくらいにしておきます。

2.昭和的価値観の人はどこにいっていもいる。そうした人をいかにのせて動かし、組織を動かしていくのか、がマネジメントだと思う。つまり一担当者という役割を超えて、「会社をどう動かすのか」という視点を、社会人は常に持っていなければならない。たとえ一担当者としても。著者の視点からこの点は欠けているのではないか。

3.そして最大の違和感。「昭和的価値観」は自分はもちろん同意できない。そして著者の主張は反「昭和的価値観」。でもこれにも同意できない。つまり「昭和的価値観」vs「反・昭和的価値観」のどちらにも自分の価値観はあてはまらない。

この本のベースにあるのは昭和的価値観の人達に対する批判というか、「文句」のような気がする。彼らはもう成長できないんだから、彼らに対処するためには自分が成長するしかないだろう。でも著者は非常に「無邪気な」姿勢でこうした人達に真っ向から歯向かってみせている。著者自身のブログではあえてそう試みたようなことが書いてあるが、誰に対して何の効果を狙っているのか理解できない。

ということで、1時間もかからず読んでしまったが、平積みになっているということは売れている本なのだろう。誰が買っているのかな。昭和的価値観の人が目から鱗を落とすのか。入社直後に辞めたくなっている人が背中を押してもらっているのか。

この本を読んでいて、尾崎豊の「卒業」を連想したのは自分だけだろうか。

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日本の痛み Japain (Economist誌)

英国雑誌Ecomomist の最新号で日本の特集が組まれている。表紙には「Japan」という文字に毛筆で「i」と書き込まれ、「Japain」と書かれていて、その下にはWhy you should be worried about the world's second-biggest economy と書かれている。

Economistといえば非常にストレートかつ論理的な文章が多くて面白い。去年だったか、「ベルギーは国としていらない(無政府状態だったので)」みたいな記事を堂々と載せていたし、日本についても鋭くて、安部政権誕生時(まだ人気のあった頃)に、「短期政権に終わるだろう」と指摘していた。

今回の記事の概要は次のような感じ。日本の政治を問題にしている。

1.日本のバブル崩壊は現在の米国にとって参考になるか?

・日本の不動産と株式のバブルは1990年に崩壊し、その不良債権はGDPの5分の1もの大きさだった。回復には12年もかかり、2005年にようやく金融不安と資産デフレは終結した。それでも現在日本のGDPは下がったままであり、機会損失は大きい。

・今の米国のバブル崩壊も、金融危機が実体経済を脅かしている点では共通しているが、相違点の方が多い。日本のバブル崩壊の方がはるかに規模が大きかったし、しかも日本は未だにその根底にある問題を解決しようとしていないのだ。

2.日本のバブル崩壊後の対応

・米国政府は今、金融政策と財政出動で積極的に危機に対応しようとしている。金融機関も積極的に損失を公表しようとしている。一方日本は市場に嘘をつき続け、政府もこれに加担した。

・本当に必要なのは資本市場の開放だ。外資規制を撤廃し、労働市場を開放して海外の投資家にとって魅力的な環境を作る必要がある。

・しかし日本企業の生産性は低く、投資効率は米国の半分。消費は縮小したままだ。こうした中、問題を先送りにしているのは日本の政治家であり、官僚システムである。日本の官僚は個人株主をバカ呼ばわりし、日本の古い企業を海外の投資家から守るための制度改正に必死だ。

3.日本の政治の現状

・自民党は小泉首相が進めた改革をあきらめ、むしろ逆行している。派閥、官僚、建設業者や農業団体の影響力が強くなっている。現在の低迷の責任は福田首相にある。白髪層が公共事業などの既得権の維持を要求しているが、彼はそれを抑えられない。

・一方民主党も状況は同じで、かつては改革派とみられていた小沢代表も今では古いタイプの自民党のボスのようだ。彼がもう1人の責任者である。彼の言動は民主党の改革勢力としてのイメージを台無しにしてしまった。ただし実質的な権限は鳩山氏に移っており、次の選挙までに民主党が体制を一新できるかが鍵である。

・さらに悪いことに、昨年民主党が参議院の多数を奪取した。憲法は参議院と衆議院が同時に違う政党に支配される事態を想定しておらず、野党は事実上あらゆる政府の方針を妨害することが可能になっている。

・実際、昨年9月に就任した福田首相は、最初の4ヶ月をインド洋で活動する1艘の給油艦に再度給油活動を認めさせる戦いに費やした。現在は4月から始まる来年度予算を通過させることと、3月19日に就任する日銀総裁指名で手一杯である。

4.今後の政治オプション

(1)再度自民と民主で大連立を組む。これだと日本は一党支配時代に逆戻りとなる。

(2)総選挙を行う。ここで唯一の希望は、超党派で結成した政治団体「せんたく」だ。彼らは地方分権化を望んでおり、選挙の際には使われない高速道路、渡れない橋を作るというような間違った政治家に惑わされたない人々に訴えようとしている。

次の総選挙でどこが勝っても、混沌状態は深まると言う人もいる。しかし国民には選択をする権利が与えられなければならない。たとえ選択の結果がさらなる混乱を招いたとしても、今のように何となく安定したまま没落していくよりも、問題が表面化した方がましだ。

→以上が記事の概要だ。

1.海外メディアでは、小泉改革を高く評価していることが多い。日本で彼は郵政民営化などで人気を集めたが、海外メディアのいうところの「改革」は別の点にある。それは関税引き下げであり、産業別優遇税制の廃止であり、外国企業への税制緩和であり・・・つまりは市場原理の導入だ。これは小泉首相というよりも竹中大臣が財政諮問会議の成果である。ただその竹中氏は、国内では「日本を外国に売り渡した」というように評価されているような気がする。同じ「小泉改革への高評価」といっても、国内では「郵政民営化などなんとなくいつも改革しようとしていた」姿勢への評価であり、一方海外では竹中氏に指示を出して市場開放に努めた、と言う意味での評価である。海外での小泉評にピンとこないのはそのギャップがあるせいだろう。

2.今の日本の現状を招いた要因として、もちろん政治の問題は大きいと思うが、それを伝えないマスコミの問題も日本では大きいと思う。あまり意識しないがこのブログでも何度も書いているけど。国内メディアよりも海外メディアの方が客観的に正確に現状をまとめていると思うが、多くの日本人はこうした情報から隔離されているのだ。Economistにはその点も指摘してほしかったが、同業者への遠慮だろうか??

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