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2010年5月

信越化学の社長交代:一気に12歳若返る!!

信越化学の金川社長の交代が発表された。新聞、雑誌でも名経営者としてあまりにも
有名で、信越化学の株価にはこの社長がいるからこその株価だという意味で
「金川プレミアム」が上乗せされているとも言われているほどだ。
それほどの経営者なので、後継問題も常に指摘されてきたけど、結局は副社長の承認
という順当な引き継ぎとなった。
これで一気に社長も12歳若返って会社も新たなスタートだ・・と思ったら、新社長は72歳。
84歳から72歳への引き継ぎだ。
以前と比べると日本の社長も、大企業でも若い人がなるようになったと思うけど、特に
ヨーロッパのグローバル企業なんかだと40代の社長が珍しくないので、70代の新社長
は驚きだろう。
別に年齢は関係ないとはいえ、40代と70代だと体力、スピードでどうしても差があると思う。
さらに驚いたのは、金川社長の会長就任。まだまだ経営にかかわっていくというのだ。
日本は社長を辞めると会長に、次は相談役、その次に顧問、さらには最高顧問に・・・と
社長を退任してもずっと経営に関わるケースが多い。これでは新社長も思い切った手を
打てないだろうなあ。

そう思っていたら同じ日に、ブーズ&カンパニーからCEOの交代に関する調査の
レポートが発表されていた。これを見ても日本がちょっと欧米、アジア各国と違って特殊な仕組みであることがわかる。
調査は2009年1月時点の株式時価総額で世界上位2500社に対して行われている。

まずは社長になる際、社内から昇任する形で社長になった割合から。
日本:96%  北米80%  欧州73%  アジア(日本除く)72%
日本はほとんど全てが社内からの登用だ。これは会社員の出世競争の
最後が社長、ということ。社長が「専門職」という認識があれば
外部から「プロ社長」の登用が海外のように増えるんだろう。

次に社長に就任した時の年齢について。
日本:66歳  北米、欧州、アジア:グラフしかないけど50歳位
これはだいぶ差がある。ちなみに世界の平均は53歳なので、日本はちょっと突出して
いる。
そうなると社長在任年数は逆の結果になるわけで、
日本:5.6年  北米:8年くらい  世界平均6.3年
高齢で社長になるので在任年数は当然短くなる。何となくイメージは日本は長期的な
視野での経営、北米は短期的視野での経営みたいな感じがあるけど、北米の社長の
方がじっくりと社長業に取り組めるようだ。

次に、社長就任時に、前社長が会長として留まる割合をみてみる。
日本:75%  北米:46%  欧州:22%
これも日本がちょっと異常値だ。60歳を超えてようやく社長にたどりついて、すぐに
辞めなければならないので、その穴埋めに会長に就任する、という感じだろうか。
それにしてもその後の相談役以降も含めると長すぎる。
逆にそのおかげで急には新しいことには取り組めないので長期的な視野での経営が
できているということか??

もう1つ面白いデータがあって、前社長が会長に留任している
ケースとそうでないケースで業績に差があるか、というデータだ。
ここで業績の指標としては各地域の株式インデックスと比較した「市場調整後株主
リターン」を使っている。まあその妥当性は別として、結果はこうだ。
会長留任CEO:1.8%  そうでないCEO:3.1%
やはり自分を引き上げてくれた人が会長にいると、彼がやった施策を否定して改革する
なんてことは難しいんだろうなあ。

この結果をみても、日本の社長の一番の経営課題は、いかに後継者を育てて、
引き継いだ後はきっぱりと退場できるかということだと思う。
日本の会長のみなさん、あまり頑張らないように!!

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スターバックスVIAのマーケティング

スターバックスで4月から販売を開始した「スティックコーヒー」
のVIA。ここのところスタバに行くことがものすごく多い
(ほぼ毎日?)んだけど、自分が見ている限りはVIAが売れている
のを見たことがない。
米国では昨年発売されてから、業績の傾いたスタバの救世主みたいに
言われていて、満を持しての日本投入だったけど、さてどうなるん
だろうか? 今日発表の決算でも、既存店売上高が前年比5%もダウン
している、スタバ・ジャパンの救世主になれるのか??

1.VIAとは
スティックに入っている粉末をお湯で溶かして飲むコーヒー。
ただ、製法はインスタントと違い、商品化まで20年をかけたとのこと
で「スティックコーヒー」という新しいジャンルの商品だ、と言って
いる。ちなみにVIAとはイタリア語でRoad。もう亡くなってしまった
開発者のDon Valencia氏のVと最後のiaをとった。
米国では昨年発売、この春から日本とUKで発売。
米国では、スタバのドリップコーヒーと飲み比べキャンペーンをやり、
大半は違いがわからなかった・・・というのが評判になった。
そういえば日本でも最初の数日間だけ無料飲み比べやっていたけど。

2.インスタントコーヒー市場
スタバはVIAの日本発売の時にもトップが来日したり、ずいぶん
日本への期待が大きいんだなーと思っていたら、日本は世界最大の
インスタントコーヒー市場があるそうだ。2009年の日本市場の規模
は2.3十億ドルで、米国の3倍の規模になる。
日本のコーヒー全体の63%がインスタントコーヒーで占めているん
だけど、我が家はインスタントを全く飲まないのでちょっとピンと
こない。日本のインスタント市場の70%はネスレがシェアを押さえて
おり、ほぼ独占市場。これはそうだろうなあ。逆にネスレしか思い
浮かばないくらい。
日本の少し前に発売されたUKもインスタント比率は高く、コーヒー
全体の81%にも及ぶ。米国が40%であるのと比べると、これは会社
としても期待をかけるだろう。

3.マーケティングの疑問
ところで不思議な点だらけなのがマーケティング面だ。

(製品のコンセプト)
根本的にこれがよくわからない。
つまり「安いスターバックスコーヒー」なのか?
それとも1杯分100円の高いインスタントコーヒーなのか??
普段スタバで飲む人に家でインスタントを飲んでほしいのか、
普段インスタントしか飲む習慣のない人にスタバのインスタントを
飲んでほしいのか?

(価格)
コンセプトがはっきりしないと価格も妥当な感じがしない。
「安いスタバ」であれば、味がドリップコーヒーと本当に変わらないと
いうのに100円は安すぎるのでうそくさい気がするし、「高いインスタ
ント」であれば12杯分1000円はよほどネッスルのインスタントと味が
違わないと継続的に出さないだろう。
まして、今はマックでもけっこうおいしいドリップが低価格で売られて
いるのでなおさら100円というのが微妙すぎる。価格というのは高くて
も安くてもメッセージを持つということか。

(販売チャネル)
一方でVIAはスタバの店頭でしか買えない。サントリーから出ている
スタバマークのついた紙容器コーヒーはコンビニでも売っているのに。
もし日本の巨大なインスタント市場を狙っての参入だったら、インス
タントコーヒーが売られている場所にVIAがないと、かわりに買うと
いうことにはならないんじゃないかな。

4.スタバの考え
疑問に対するヒントは、発売時に記者発表の席で説明した、スタバ
ジャパンの説明にある。
担当者いわく、ターゲットと想定しているのは年配ではなく、若い層。
職場の近くにはスタバがあるのでそこで飲めるが、だいたいは自宅は
郊外にあり、近所にスタバがない。時間に余裕のある年配層は時間を
かけておいしいコーヒーを入れるが、彼ら若い層には時間がない。
なので、おいしいインスタントは若い層の「ホームユースコーヒー」
になる、というような説明だ。
うーん、そんな人は本当にいるかなあ・・・?
まず会社の近くでスタバに行く若い層は、スタバに何をしに行くのか?
コーヒーの味を味わいに行くのか?
答えはスタバの店舗で客を観察すれば答えは分かると思うんだけど、
ゆっくりしたり、気分を変えたり、勉強をしたりといった「場」を
求めてるんじゃないだろうか。スタバの最初のコンセプトが、自宅でも
職場でもない第3の場所「The third place」だったはずだし。
あ、今日発表の決算短信にも依然として書いてある。
スタバをそういう使い方で使う人が、家でインスタントは飲まない
だろう。彼らが家で手軽に飲めるおいしいコーヒー・・・といえば、
思いつくのはネスプレッソ。
最近ネスプレッソや同じようなカプセル型のエスプレッソメーカーの
売り場がすごく混んでいる。彼らこそ、自宅で手軽においしいコーヒー
を求めていた人だろう。
という自分も、実は最近買ってしまいました。手軽は手軽だけど味は
そこそこ・・・と思っていたら、驚いたことに味もおいしかったので。
スタバで下手な人が入れるラテよりも、ネスプレッソで作るラテの方が
おいしいくらいです。これが。

5.ではVIAはどうするのがいい?
このままではあまり売れないで店頭にただ並んでいる状態になるんじゃ
ないだろうか?
当初心配されたような、店頭で飲むドリップとのカニバリはなさそう
だけど、逆に相乗効果もない。立ち上がりでぱっとしないイメージがつく
と挽回するのは難しいだろうから、早急に立て直した方がいいだろう。
実際飲んでみての第一印象は、入れたてのときはまさにこれぞ
「インスタント」という香りがする。これを米国のように「ドリップと
かわらない」とスタバ愛好者に言っても、「いやー、やっぱりインスタ
ントでしょ」となるだろう。
一方、少し時間がたつと、最初のインスタント臭は消えて、確かにドリ
ップとかわらない気がしてくる。温度のせいか、香りが飛ぶせいか
わからない。
なのでインスタントのかわりとしては、1杯分100円払ってでもこっち
の方がいい。となると、やはり「高いけどおいしいインスタント」と
して売るべきだろう。
そのためにはチャネルは店頭ではなく、インスタントコーヒーを売って
いる
場所だろう。店頭では店員が手書きで書いた「私のVIAストーリー」
みたいなのが貼られているけど、その内容はバラバラでピンとこない。
もっとCMで明確なメッセージを決め打ちした方がいいんじゃないかな。
旅行に、出張に、キャンプに、もしくは毎日の自宅でのゆったりした
時間に、みたいに。(インスタントにスタバのブランドが効かないと
したら、別ブランド展開をした方がむしろ良かったのかも)
それにしてもどうしてこんなにアーケティングに違和感があるのかな、
と考えてみたが、ひょっとすると今の展開は米国の本社の意見が色濃く
反映されているんじゃないだろうか。
米国で成功したものをそのまま市場の大きな日本でやっているんだと
したら、米国と日本ではスタバの使われ方も、自宅でのコーヒーの飲ま
れ方も、インスタントコーヒーの浸透度も違うので日本のマーケ部隊に
もっと頑張ってほしいなあ。

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