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2010年2月

オリンピック: 上村愛子と浅田真央

2週間のバンクーバー・オリンピックがほぼ終了した。
全体を通してコンディションも悪いし、トラブルも多く、運営に関しては閉会式終了後にどっと不手際ぶりが報じされそうな感じだ。

日本選手の成績は、というとまあ事前の予想通りだろう。最後のスケート追い抜きも世界ランクは3位だったそうだし、だいたい今シーズンの力がそのまま出たというところだろう。

1.上村愛子はソチを目指すのか?
オリンピックの最初は上村選手でもちきりだった。どこのチャンネルも上村選手とお母さんの話ばかりだったなあ。結果もドラマチックで4位。この筋書きは、次はメダルだろうという無責任な期待もあるのかな。
上村選手の今回のオリンピックに向けての準備は適切だったと思う。エアよりもターン重視の採点傾向に適応し、得意のエアを捨ててターンを磨き、「チーム上村」で戦ってきた。今シーズンはW杯の成績も今一つだったので、今年のコンディションの持っていき方には問題はあったかもしれない。
ただ、オリンピックのモーグルを見るたびに思うのは、「自分の実力を100%発揮しよう」という姿勢では勝てないだろうということだ。皆自分の能力以上にガンガン突っ込んできている中で、実力+運でたまたまうまくいった者だけが上位3人に入れる、という印象だ。
いい例が里谷選手。W杯でぱっとしなくても、いつもオリンピックではつっこんできてメダルを取っていた。今回も見事なつっこみぶりだった。今回は無残な負け方で、しかも不自然なくらいマスコミも存在を抹殺していたけど・・・。でもあの姿勢でなければメダルには届かない。
上村選手の試合前の発言で気になったのは「後悔をしたくないので思いっきり行く」というコメントだ。全然関係ないけど、行動ファイナンスでいうと典型的な失敗パターンで、後悔したくないという心理は結局安全策を取ってしまうというパターンだ。やはり自分の100%以上には安全バーを外すことはできなかったんだろう。
多分そこに気がつかない限り、もう一度オリンピックに出ても結果は出ないんじゃないだろうか?オリンピックの一発勝負よりは、シーズンを通しての王者を決めるW杯の方が、実力を発揮できるだろう。ぜひ来シーズン、最後にもう一度W杯王者を取ってから引退してほしい。

2.浅田選手はソチで金メダルを取れるのか?
一方の浅田選手。上村選手とは対照的に、採点法の変化にも対応せず、トリプルアクセルにこだわりを見せる一方で、表現力をつけるということでロシアの一時代前のコーチについてしまった。もうここで戦略が矛盾している。
しかも普通はコーチのいる国に選手が行って指導を受けるのが一般的(キム選手がカナダに住んでいるように)なのに、浅田選手は日本から離れたくないとのことで実際にコーチの指導を受けたのは試合の合流時くらいだったとのこと。キム選手が「チーム・ヨナ」みたいな感じでまさにプロフェッショナル集団だったのに対し、浅田選手は自分ひとりで立ち向かったという感じがする。プロ対アマの勝負では話にならないだろう。
浅田選手のいつも口にする目標に、「ノーミスの演技をする」というのがある。これは以前であれば採点法にもぴったり合っていたのだろうが、今の採点はどうも完成度による加点がポイントのようだ。金選手のコーチは2週間に1度スケート連盟と採点法についてミーティングをし、点数の取れる演技を緻密に練り上げていたそうだ。
今回、フリーの演技が始まった後、ノーミスの演技をしても勝てないのではないかという現実と初めて向き合ったんじゃないだろうか??今まで、自分がたてた高いハードルをクリアすれば目標を実現することができてきたが、今回は仮にハードルをクリアしていたとしても金メダルは取れなかっただろう。その現実を認めて、プロフェッショナル集団を作り、彼らの意見を聞くことができるかどうかが、ソチで金メダルを取れるかどうかの第一歩だろう。
もちろん、人ができないことをやるのが目標ではなく、金メダルを取ることが目標だったら、の話だけど・・・。彼女の場合は今回まずそこがぶれていたんじゃないだろうか。
マスコミも、銀だけど感動をありがとう、次は絶対金メダル、と毎日言うばかりではなく、きちんと今回の反省と今後の進むべき方向を分析して報道してくれたら面白いのになあ。サッカーのようにスポンサーのしがらみがあるわけでもないだろうし。

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オリンピック選手に品格は求められるのか?

バンクーバーオリンピックが始まった。
前回と比べると日本選手の活躍の機会も多く、結構関心も高いのかな。
今回もマスコミはどんどんトピックスを作って報道をしている。上村選手とお母さんとか、もうそればっかりでもう少し競技自体とか、なぜ勝てなかったのかとか、そのあたりを報道してもらいたいけど、何か競技と離れたトピックスばかりだ。

そんな中でも一番ナンセンスだと思うのが、国母選手の問題。また若者への集団バッシングかよ・・・という感じ。マスコミの論点をまとめると次のような点だろうか。

1.国の代表としての自覚がない
やはりオリンピックはお国の代表なんだろうか?それとも個人の戦いなんだろうか?
だいたいは「国のためではなく自分のために戦っている」と言って、それを非難するパターンが多い。その根拠は税金で参加しているという点だ。
普段はナショナリズムなんてあまり感じないのに、オリンピックとかWBCとなると急に国民が一致団結することを強いられているような気がして変な感じだ。

2.オリンピックという自覚がない
マスコミとしてはやはりオリンピックは4年に1度なのでそれに向かって人生全てをかけてきて、たった一度の本番(数十秒で終わってしまう競技もあるし)で勝敗が決まるというところに価値を持たせたいんだろうか。国保選手は「オリンピックは数ある試合の1つ」というような発言をしていてずいぶん叩かれている。彼はプロ選手で賞金を稼いで生活しているわけで、本心からオリンピックを年間の試合の1つと思っているのかもしれないし、やはり勝ちたい試合なので強がっているだけかもしれない。

3.品格がない
そして一番ナンセンスだと思うのがこの批判。なんとなく朝青竜の問題を引きずっての批判なんだろうか。確かにインタビューで「チェッ」を繰り返していたのはちょっと幼稚すぎるけど、服装に関してはどうしてここまで議論されるんだろうか?
何か服装の乱れが精神の乱れだとか、ゆとり教育の弊害だとか、いろんな指摘があるけど、単にTPOの問題のように思う。レストランのドレスコードを理解していなかった、という程度じゃないんだろうか。
あと「勝ちさえすれば何でもありというのは正しいか、誤りか」みたいな議論もされているけど、別に国母選手は何でも好き勝手にやっているわけじゃないんじゃないかなあ。
少なくとも世界のトップレベルのアスリートなんだから、もっと敬意を持って扱ってあげてもいいのになあ。

これらに対してやらなければいけないのは次の点だろうか。

1.何が問題だったのかを明確にするべき
彼は何か問題なのか理解していないと思う。海外でもこの件はけっこう取り上げられているが、服装・髪型をいったい誰が気にするのか?という「世界の不思議ニュース」扱いだ。
ついでに日本人の多くが若者らしいと感じ、清潔感を持っている高校野球についても、坊主頭とか、入場行進とか、ぜひ海外メディアにはこの際紹介してほしい。(笑)
国母選手には、着崩した着こなしがどうとか、そういう点ではなく、パブリックとプライベートの区別ができなかったことが大きな問題だったことを、きちんと指導すべきだろう。

2.指導はその場その場でするべき
そもそものきっかけは「だらしない」姿で空港に降り立ったことから始まった。それが取り上げられて騒ぎになって、あわてて協会も対応した感じだ。でも飛行機を降りるところから報道陣のいるところまで一緒に歩いていたわけで、すぐにその場で直させる機会はあったと思う。協会はいったい何をしていたんだろうか。
話はそれるけど、先週の服装の乱れよりは開会式で明らかに協会役員と見える人ばかりが居眠りをしているのがアップで映ったことの方が、よほどだらしないと思うけど。

3.くだらない一時の盛り上がりでのバッシングはやめるべき
なんか国民全体がこの件に対して×だと思わなければおかしい、そんな雰囲気が数日前はあったと思う。バッシングするなら大会後でまとめてやればいいだろう。オリンピックは何より参加するアスリートのためのものなんだし。
この集団ヒステリーに乗せられて、学校応援を中止した東海大の判断はおかしいと思う。

ということで時々同じことが繰り返される、若者に対するバッシングだが、ぜひ日本選手にはメダルを連発してもらい、忘却の彼方に追いやるのが一番手っ取り早い対処法かな。



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キリンとサントリーが破談に その2

今日の報道でさらにキリンとサントリーの交渉の過程の話がいくつか報じられている。
昨日のブログではどちらかというとサントリー側の問題について書いたけど、今日の報道ではキリンの対応の問題点が気になったので、続編ということで。

1.統合比率の問題
ずいぶんと報道されたのでもう寿不動産もすっかり有名になってしまった。
サントリーが非上場で株価が存在しない以上、交渉の事前準備の段階で当然企業価値の算定と統合比率のすり合わせはやっているだろう、と思ったらやはり報道されている。
昨年1月の下交渉の段階では、両社の話し合いでは統合比率は0.78から0.88であり、寿不動産が3分の1超を取ることでコンセンサスがとられていたとのこと。これは重要なポイントだと思う。

サントリーの創業家としては新会社(サリンとかキントリーとかいろいろネタにされてたけど)の3分の1は最低取りたいだろうが、これを実現するには統合比率はどこまで妥協できるのか、計算してみた。
キリンの発行済み株式数は984,508,387。同じくサントリーは687,136,196。もし統合比率が1対1、つまりキリン1株にキントリー1株、サントリー1株にキントリー1株を与えるとして、サントリー分の89.3%は創業家なので、創業家の比率は687,136,196/(687,136,196+984,508,387)×0.893=41.11%となる。3分の1以上だ。
同様に計算して統合比率を下げていくと、1:0.9だと創業家比率が38.58%、1:0.8で35.83%、1:0.7で32.82%、1:0.6で29.52%、1:0.5で25.87%となる。 3分の1超となる33.4%を確保するには、統合比率は1:0.72となる。
1月の下交渉で0.78から0.88ということは0.72を超えているので、寿不動産が3分の1以上持つことを事前合意していたということは、統合比率は0.72以上でなければならない。
これに対して、11月にキリン側が最初に提示した統合比率は1:0.5。つまり最初の提示で約束に反していたということだ。
一方のサントリーは1:0.9を主張したとのこと。両社の規模と収益性を考えて、さらには非上場であるのでディスカウントされるとすると0.9はあり得ないが、まあ交渉の最初のボールとしては当然だろう。
しかしキリンの0.5については、新聞では「交渉上のテクニック」というコメントがあったが、あまりにお粗末だ。サントリーは1に近いだろうし、落とし所は0.72だからそこが中間になるように0.5とふっかける、これが「交渉のテクニック」というのだろうか?
まずはこの日本企業独特の論理的でない「ふっかけて中間に落とす」やり方が今回の決裂の第1原因だろう。

2.サイレントマジョリティ
もう1点、下交渉時に合意していたこととして、サントリーの大株主は経営に口出しをしないということが書かれている。つまりキリンとしては、サントリーの創業家には昔の持ち合い株主のように「物言わない株主」つまりサイレントマジョリティとしての役割を期待していたとのことだ。1月にサントリー側が大株主の権利を確認したところ意見が分かれたとのことなので、サントリーとしては「そうはいっても何かおかしければ物は言う」権利は確保したかったのだろう。
これは株主としては当然のことだ。完全に口出しをしない大株主を持とうと考える方がおかしいと思う。
下交渉上時に仮にキリンの考えるような合意があったにせよ、時系列からいうと統合比率の合意を最初に破ったのはキリンであり、サントリーが態度を硬化させたとしてもそれも当然のことだ。

ということで、交渉の経緯という点ではキリンが大きく戦術を誤ったということができるだろう。もしくは詳細に企業価値を計算してみるとどうやっても0.72の根拠が作れなかったとすると、下交渉時の企業価値評価が完全に間違っていたということかもしれない。

いずれにしても、タイミングの悪いことに昨年よりは今の方が両社とも業績は悪くない。両社とも海外にMA先を求めるというようなコメントをしているが、現在の状況は逆で、巨大化した海外大手がアジア市場にターゲットを定める時が来ると、キリンでもサントリーでも簡単に買収するだけの力を持っている。どこを買おうか考える前に、どこかに買われないように対策を打つ方が先かもしれないなあ。

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キリンとサントリーが破談に

昨年7月28日にもブログで取り上げたキリンとサントリーの経営統合の話。
昨年末から1月にかけても交渉がうまくいっていないことが度々伝えられてきたが、とうとう今日付けで交渉終了となった。

キリンの言うところの理由は、新会社の独立性、透明性を担保できないという点。サントリーの言うところの理由はズバリ統合比率に納得がいかないという点だ。

7月のブログで書いたのは、サントリーにとっては上場になるので、内部統制の点でそれに耐えることができるのか?という点。あとは対等合併を目指すと言っているがファイナンス上はキリンによるサントリー買収であり、一方で大株主はサントリーの創業者になるという状況で、統合比率はどう算定するのか、という点だった。みごとにこれらが解決されることなく破断になったということだ。
今日のニュースでは「最後の詰めの部分で破談になった」という表現をしていた報道があったが、最後の詰めどころか、最初の一歩でもうずれていたということだろう。

しかし今日の両社の記者会見はみごとに2つの会社の差が表れている。
キリンはすっかりグローバル基準のパブリックカンパニーという感じ。さすがにEVAを導入して緻密な利益管理をする会社だ。質疑応答も十分に練られている感じだし、本当に教科書的なIRだ。
一方のサントリー。「守秘義務があるのであまり答えられない」と前置きしつつこちらは言いたい放題だ。
「統合比率は50:50の対等合併が基本だが、50:50ではなく具体的な数字をあげて交渉した。その数字に自信があったので固執した。」と言っている。昨年末の報道で、キリン側のファイナンシャルアドバイザーが算定した合併比率はキリン1:サントリー0.5、一方のサントリー側が1:0.9と報道されていたが、それに近い話のようだ。
固執した数字がいくらなのかはわからないが、佐治社長は「サントリーの大株主の寿不動産の持ち株は最低3分の1超となって当然で、それがなければ最初から交渉していない」とまで言っている。
こんなことは最初からわかっていたことで、キリンは3分の1超は寿不動産が持つことは基本的に承諾した上での話ではなかったんだろうか?
また佐治社長は、キリン社長が経営の透明性を担保できないとコメントしたことに対し、「経営は透明に決まっている。サイレントマジョリティか、いざとなれば意見を言うかの差だけだ」「オーナー会社の良さとパブリックカンパニーの良さを半分ずつ取るつもりだった」と述べている。
これは到底パブリックカンパニーになろうとしている経営者のコメントとは思えない。やはり外部の株主からのプレッシャーというのを全く理解できないんだろうし、上場することは100%パブリックになるということで、全てをさらけ出さなければならないことは理解できないんだろう。
ということで、今回のMAのポイントはやはり上場企業による非上場企業の買収が、企業価値算定と統合比率の算出の面、そして非上場企業の株主の持ち株比率のコントロールの面からいかに難しいかが、当初の予想通り明らかになった、というところだろう。

こんなに初歩的なところで頓挫したということは、当初この統合の話が報道されたときは日経新聞も十分に取材した記事を載せていたので、ある程度基本線の合意をうけて進んでいるものと思ったけど、実際はそんなに両社に戦略上の余裕はなく、トップ同士の意気投合レベルで発表したのかなあ、という気もしてくる。
あと、キリンは本当に自社の事業展開に危機感を持っていたんだろうけど、サントリーは自社に対する誇りというかプライドが、危機感よりも強かったんだろうなあ、と思う。

今後、キリンは相手を変えてやはり大きなMAを仕掛けてくるだろう。ひょっとするとアサヒかもしれないけど。もしくは海外の上場企業。もう非上場で内部統制の整っていない企業はごめんだろう。
一方でサントリーは、社長もコメントしているとおり、海外で提携先を探すことになるだろう。ただし、サントリーが買収する形で今の経営形態を維持できる先を探すだろうから、世界規模で統合が進む食品セクターでは中途半端なMAに終わってしまうかもしれない。
オーナー企業と上場企業の良さをミックスすることなんてもう考えない方がいいだろう。

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