人間のモチベーションを説明する理論として有名なものに、マズローの5段階の
欲求がある。人間の欲求には低次元なものから高次元なものへと5段階に
分かれていて、これが満たされないと、充足しようとする行動を取る。
低次元な欲求が満たされると1段階上の欲求が生まれ、より高次元な欲求へと
段階的に移行する、という。
低次元な順にあげると・・・
1.生理的欲求
生命維持のための食欲・性欲・睡眠欲等の本能的・根源的な欲求
2.安全の欲求
衣類・住居など、安定・安全な状態を得ようとする欲求
3.親和(所属愛)の欲求
他人と関わりたい、他者と同じようにしたいなどの集団帰属の欲求
4.自我(自尊)の欲求
自分が集団から価値ある存在と認められ、尊敬されることを求める認知欲求
5.自己実現の欲求
自分の能力・可能性を発揮し、創作的活動や自己の成長を図りたいと思う欲求
最後の自己実現の欲求だけは、一度満たされてもさらに強い充足を求めて
無限の繰り返しに入る、ということだ。
しかし、そういうものだろうか??
なぜそんなことを考えたかというと、昨日以前勤めていた会社の上司に会った
んだけど、ところで自分はどうしてその会社を辞めたんだっけ、とふと考えた。
十分に集団から認められていたし、能力を発揮できる場も、引き続き与えて
くれただろう、そんな会社だったのに。
マズローでいうと、自己実現欲求の無限ループに入ったということか!?
いや、そんな大げさな動機ではなく、もっと低次元の欲求のような気もする。
Harvard Business Review 10月号の、「新しい動機づけ理論」がちょっと
ヒントになると思う。
ここでは人間の欲求(本では欲動と訳されていた)は4種類に分類され、
これらは人間の頭脳に先天的に備わっているため、それらがどれくらい満足
させられたかによって、行動が直接左右される。モチベーションが最大化され
ている状態はこの4つの欲求全てが満たされている時、ということだ。
1.獲得の欲求 (Drive to acquire)
幸福感を高める、希少な何かを手に入れること。
金銭的なものはもちろんだが、役職への就任など社会的地位の獲得など無形
のものも含まれる。これは相対的で限界がない。いつも自分の持っているもの
と他人のものを比較して、「もっと欲しい」となる。確かにそうだ。給料とかいくら
もらったら満足、というのはないだろうなあ。
2.絆への欲求 (Drive to bond)
個人や集団との結びつきを形成すること。
組織、同盟、国などと結びつきたい、という欲求が満たされると前向きになり、
満たされないと孤独感やモラル低下を招く。その組織にいることを自慢に思え
ばモチベーションは向上し、組織に裏切られると低下する。
会社にいると部門、事業部などの縦割り組織の壁を破って行動することが
難しいのは、人間は一番身近な集団を大切に思うからだろう。
ただし、より大きな集団(会社全体など)に同じ気持ちを抱かせることができれば
自分の組織よりも会社全体の利益を考えるようになるだろう。
3.理解への欲求 (Drive to comprehend)
自分を取り巻く世界を理解しようとする好奇心のこと。
意味のないことをしていると感じれば不満になる。見えない答えを見つけようと
挑戦すればモチベーションがあがる。単調な仕事だとその逆である。
職場で有意義な貢献を果たせなく、閉塞感を覚えたときに、チャレンジングな
課題を他社に求めて退職していくのはこの欲求を満たすためだろう。
4.防御への欲求 (Drive to defend)
外部の脅威から自分の身を守ること。
自己、業績、家族、友人、新年などを外的から守ろうとする。さらには単なる防御
だけでなく、正しいことを求め、正しい組織を作りたいという欲求にもつながる。
改革をしなければならないことは理解できても、変化を避けたいのはことためだ。
これら4つの欲求には、重要度の順位はない。そしてつながりもなく、異質なもの
としている。社員同士の絆に無関心な会社が、いくら高い給料を払っても社員は
一生懸命働くことはない。まあ働くことは働くけど最高のパフォーマンスではない。
つまり4つの欲求を常に全て満たすことが必要だ。
うーん、この理論に照らし合わせて自分の転職のことを考えると、もう少し説明
がつく。全く満たされていない項目はないのだが、完全に満たされていたと
思える項目も1つもないような気がする。
つまりどれかが1つ満たされないのではなく、どれも少しずつ満たされない、
そんな時にその会社で働こうというモチベーションは下がるのかもしれない。
ちなみにこの論文では、それぞれの欲求を満たすために、レバーとなるポイント
が記されている。
1.獲得→ 報奨制度の整備:優劣を明確にする、業績連動型にする、など
2.絆→ 企業文化の醸成:社員間に信頼を持たせる、チームワークを重視する
3.理解→ 職務設計:社内で重要な役割を与える、組織への貢献意識を高める
4.防御: 業績管理と資源配分プロセスの整備:公正、透明な評価と報酬
これらの手当てが組織的になされていることが重要なのはもちろんだが、もう1つ
強調されているのは、直属の上司の役割だ。部下は上司に対して、これら4つの
欲求全てに対応し、最善を尽くすことを期待しているということだ。
つまり会社がだめでも、これらの欲求を何とか部下に対して満たしてあげようと
努力する上司がいると、部下のモチベーションはあがる。
組織の業績を最大にするためには、組織面での仕組みの改善と、上司に対する
教育という、マクロとミクロというべきか、2つの側面から従業員の4つの欲求
全てに対し、何らかの解決策を提示してあげることが必要なのである。
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