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2008年7月

最後の授業

自分は2年間、ビジネススクールに通っていた。そこは大学とは異なり、自ら面倒な選択をして自分を鍛えよう、という意志を持った人間の集まりだった。
毎日ケースを読み、問題を整理して解決策を考え、整理するのに足りない理論面は自分で読み込み、授業でディスカッションをしながら頭をフル回転させる、その連続だった。
それほど面白くもない授業もあるが、教授も熱意を持ってのめり込み、まさに毎時間が真剣勝負、というような授業は、本当に終わるのが惜しかった。
最後の授業では、自分の人生談を語る人、我々へのエールを語る人、その科目のエッセンスを一言で言う人、さまざまだった。マーケティングの教授の最後のコメントは、「マーケティングはロジックだということがわかっただろうか。全ての要素が論理的に矛盾していないマーケティングプランでさえ、成功するかはわからない。ただ言えるのは、プランの上でロジカルでないものは実行しても必ず失敗する。」 ファイナンスの教授は「結局ファイナンスなんていい加減なものです。」 うーん、面白かったし、社会人に復帰した数年後の今でもなお納得する。
2年生の時の証券理論の先生はさんざん最新の理論を叩き込んだ後、最後に生徒全員に「幸福論」という哲学書をプレゼントして、「ビジネススクールは別に最新の理論を学ぶところではない。そんなものはすぐに古くなる。ましてやMBAなんていうタイトルのためでもない。これからどのような困難なことが起きてもあきらめずに解決しようという姿勢。自らを奮い立たせる”Attitude”を身につけるところだったということだ」と締めくくった。
こういうのはどこでもあるようで、ハーバード・ビジネススクールではこの「最終講義」を集めた本も出ていたりする。(「ハーバードからの贈り物」by デイジー・ウェイドマン)

さて、本題は「最後の授業」という1冊の本。最近ネットでも話題になっているので知っている人も多いだろう。
カーネギーメロン大のランディ・パウシュ教授が、膵臓癌で余命数ヶ月と宣告され、その「最後の授業」をしたときの話だ。本はその後書かれたものなので、まずは実際の授業の模様をYouTubeで見るのがおすすめ。「最後の授業」と入れれば10個くらいのファイルに分かれているのですぐわかるでしょう。なんと日本語字幕つき。もしくはDVDつきの本を買ってDVDをまず見るといいだろう。
彼はまだ40歳代で子供は5歳、2歳、1歳。んー、想像するだけでやりきれない。そして最後の授業は病気の話でも、家族の話でもなく、自分が子供のころから何を夢見て、それをどうやって実現してきたかの話だ。
授業は笑いの中で行われ、最後にこう締めくくられる。
「今日の授業でHead fakeに気づきましたか?」
Head fakeと辞書で引いても出てこない。字幕では「頭のフェイント」と訳されていたが、つまり本人は気づかないままに、その時は気づかないが後になってわかる教え、というような意味だ。
「今日は夢をいかに実現するかについて話をしたのではない。それは逆で、人生を正しく生きていれば、運命は自然と動き出し、夢の方から近づいて来るものだと思う。」
うーん、なるほど、一本取られたなーと思っていたらさらにこう続く。
「それでは2つ目のHead fakeには気づきましたか?」
「それは、この授業は皆さんのためではなく、私の子供のためにしたのです。」
本当にすばらしいエンディングだった。
彼は自分の舞台である「授業」を通じて、今はまだ小さくて自分の想いを伝えられない子供たちに、父親としてタイムカプセルを遺そうとしたのだ。
ガンジーの言葉に"Live as if you were to die tomorrow, learn as if you were to live forever." という言葉がある。
大げさだけど、たまには思い出してせめて反省だけでもしなくちゃ・・・。

<<追悼>>

この記事をアップした2日後、2008年7月25日、パウシュ教授は膵臓癌で亡くなられました。心よりご冥福をお祈りします。

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iPhone

さて何だか突然盛り上がってすーっと冷めた感じのiPhone発売でありました。
結局自分の場合は、一応6月14日に入れた「仮予約」がいまだに生きていて、「入荷次第連絡する」という状態が続いている。別に1日を争って欲しいものでもないのでいいんだけど・・・。
ネット上でも、次第に「ここが不満」というコメントも出揃ってきたかな。これが結構面白い。
インターネットがしょっちゅう落ちる、とか電波が弱くて自宅でつながらない、というような初期不良みたいなものはおいておくとして、結構多いのが
・ 絵文字が使えない
・ メールが使いにくい(コピペができない、など)
・ 着信音が選択できない
・ 携帯サイトにアクセスできない
といった点だ。そういうところに価値を感じる人がiPhone買っちゃだめだろう、と思うんだけどなあ。
今回の発売で考えさせられたのは、iPhoneとは「アップルのiPod に通話機能がついた」のか、「ソフトバンクの携帯電話にiPod機能がついた」のか、どっちを強調して売るのか、というマーケティング上も問題だ。製品としては明らかに前者だろう。通話機能は本当におまけで、あくまでこれはiPod touchの改良版だ。
しかし日本では後者のようなイメージを与えている。iPhoneといえば孫さんが思い浮かぶし。しかしこれを携帯として売り出すと、日本の携帯でおなじみの機能が欠けていることばかり目につくのではないだろうか。上に書いた批判は全て「携帯電話のヘビーユーザー」の視点であることからもわかるんじゃないかな。
iPhoneは音声通話はあくまでおまけで、音楽を聴けるというのもおまけで、やはり「通信端末」なのだと思う。単に「クール」なイメージだけでは、本当の凄みは伝わらないのではないだろうか。
「iPod touchが少し大きくなって、細かい機能はプラスされて、電話もできて、メールは使いにくいけどまあ使うことはできる。毎月の固定費は7000円以上かかるが、これから便利な使い方がどんどん生まれてくる、ちょっとクールなプラットフォームといったところですが、何か?」という感じかな。
「ポジショニング」というのはイメージづけるのは大変だし、一度ついてしまったものは変えるのは難しい。iPhoneはアップルストアで売るべきだったのではないかと思う。

発売後、いろいろな人が、iPhoneをばらばらに分解して部品のコストを洗い出し、原価の計算をしている。8GBのiPhoneの推定原価は174ドル。だいたい原価率は55%らしい。第一世代iPhoneよりもコストダウンに成功したようだが、それでも結構高いなあ。アップルとしてはこの端末を持たせて、そこから先どれだけ課金できるかが今後の課題だろう。
一方ソフトバンクにとっての最大の問題は、これからデータ通信量が膨大になっていくのに対してインフラ整備が追いつくのか、ということだ。財務上、それに耐えうることができるのかどうかは疑問だ。

ちなみに原価率55%というと、都心で毎日弁当を売りにくる優良企業、「玉子屋」の弁当の原価率(53%)とほぼ一緒だ。弁当の種類は1種類のみ。毎日数万個作ってロスが数個、という徹底したシステムの企業である。iPhoneもなかなかやるなあ。

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夫婦げんか

最初に言っておきますが、今夫婦げんかをしているわけでも何でもないですので・・・Harvard Business Reviewの8月号に、「パートナーシップの心理学(35年、3000組の夫婦の分析に学ぶ)
」という、心理学者ジョン・ゴットマンのインタビューが掲載されている。彼は3000組の夫婦を時系列で調査し、家庭内の人間関係について科学的な研究を重ねてきており、そこから得られる考え方が職場内での人間関係にも当てはあまるのではないか、という記事だ。もっとも本人は「簡単に当てはめて語らないでほしい」と言っているが。

良い関係の夫婦の会話には、特に夫が妻に対し、「それは思いつかなかった」「君が重要だと思うならやってみよう」というように、会話のあちこちに肯定的な表現が振りまかれているそうだ。逆に問題がある夫婦の場合は、「そんなのありえない」「俺に指図するな」など否定的な言葉が多く見られるらしい。つまり、男性が女性からの影響を受け入れることができるかどうか、これが夫婦関係における最大の決め手になるとのことだ。定量的に言うと、これがうまくできな夫婦の81%が自然崩壊するという結果が出ている。

ちなみに夫婦間で口論になるのは何か。ゴットマン氏は2005年の夏に900件の口論について分析しているが、お金、嫁姑問題、というような具体的なお題で口論をしているわけではない。口論の大部分は・・・「けんかの仕方」に関するものだったそうだ。
例えば夫がテレビのチャンネルを次々に変えていき、それに対して妻が「ちょっとその番組つけておいて。面白いから」と言う。すると夫は「うん、けど他にどんなのをやっているか確認を」と言ってリモコンをいじりつづける。妻が文句を言い続けるので、夫は「わかりましたよ」と言ってリモコンを妻に渡す。すると妻が怒りだし、「そのわかりましたって言い方が気に障る」といい、夫が「お前はいつだって自分の思い通りにならなきゃいられないのさ」と応酬する、といった具合である。
うーん、つまらん・・・と思ってしまうけど、まあそんなもんだろうか。わが家ではないなあ。
こうした問題が意外に面倒なのは、正面からの修復法がないことだ。後から真面目に「あのリモコンの件を話し合おう」ということには絶対にならない。ひょんなことから仲直りをするしかないが、その「ひょんなこと」が生まれなければ意外に溝は深くなる。

ゴットマン氏いわく、人間関係で注意すべきことは「あら捜し」、「自己防衛」、「拒絶」、「軽蔑」とのこと。特に軽蔑は嫌悪感を伝えて人間関係を壊すので、最も良くないそうだ。
うーん、今日の話におちはありません。ストレートに面白い研究だなーと思ったのでまとめてみました。

そういえば、昨年末頃、iPhoneの話を書いてから半年。予想に反してまずSoftbankから出ることになり、いよいよ金曜日発売。NYでは早くも並び始めているようだけど・・・ 自分は何も考えずに発表直後に仮予約を入れました。まだ入荷台数が確定せず、どうなることやらわかりませんが。意外に大量入荷するという説と、1店舗に数台という説が入り乱れているようです。Softbankとしては当日大行列になって話題になりつつも、「どんなものだかよくわからない」うちに大量販売してしまうのが良いだろうから、ぎりぎりまで情報は出さずに行列を作らせてマスコミに宣伝させるんだろう。はたして「ワンセグのついていない」「意外にランニングコストのかかる」携帯が売れるのか?ipodユーザーが買うのか、新規ipodユーザーが買うのか?年末くらいには結果が出るんだろう。

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