名ばかり管理職
昨日のNHKスペシャルで、「名ばかり管理職」の実態について取り上げられていた。最近もマクドナルドの店長が、管理職としての実態がないのに残業代が支払われていないと訴訟を起こして、店長の主張が認められたことでスポットが当たっている。
労働時間は、労働基準法で1日8時間、週40時間までと定められており、これを超えると残業代などの割増賃金を支払わなければならない。ただし、この条項の適用除外者が定められている。それは「事業の種類に関わらず、監督もしくは管理の地位にあるもの」または「機密の事務を取り扱う者」であり、これが労働基準法で想定されている管理監督者だ。
この定義は、いわゆる企業の「管理職」の定義とはずいぶん異なっている。一般的に管理職とは社内グレードが定められた段階に達したら、管理監督の地位にあろうがなかろうが「管理職」とみなされる。労働基準法からいうと「部下のいない管理職」というのは制定時に想定していなかったのだろう。組織の階層が少なくなって「フラット化」しているのも一因かもしれない。
昨日の番組の中では「管理職」という言葉が使われていたが、「名ばかり管理職」問題のポイントの1つはここにあると思う。つまり残業代を支払わなくて良いという根拠になっている労働基準法の定める「管理監督者」と、企業がそれぞれの基準で定める「管理職」が全く別の概念であることだ。このギャップについては番組では触れられていなかった。
その代わり、労働基準監督署が管理職としての実態があるかどうかを判断するポイントとして以下の3つあげられていた。
1.経営者と一体の立場にあるか
2.労働時間を管理されない
3.相応の報酬がある
このうち、1つでも該当しないものがあれば違法とみなされる。
番組で取り上げられていた部品工場の社長は、自社の課長が管理職に該当しないと指摘され「青天の霹靂」だったが彼らを一般職に戻したそうだ。その結果、残業をするのが厳しくなり、思うように仕事が進まないと社長も、一般職に戻った元課長も困惑している様子が報じられていた。
ここに2つ目の問題がある。管理職に該当しない、という指摘を受けたのであれば、労働基準監督署の定める管理職の定義にあてはまるようにすれば良いのではないか?上記1は説明できると思うので、2にあるように時間を自由にする。これもできると思う。そう、問題は3。ここでの問題は単に企業が労働者に余分(従来のやり方と比べて)なお金を支払いたくない、という問題なんだと思う。
つまり
A: 管理職でなくして、一般職にして残業代を支払う。=ただし残業をさせない
B: 管理職にしてたくさん働かせる=ただしそれなりの報酬は支払う
の選択肢しかないわけで、それならAにして残業を強制的にさせない、という方向に行くしかない。人件費を増やさずに、仕事量を確保したいのであれば、管理職はなくして、昼間にいかに集中してアウトプットを出させるか、これに知恵を絞るべきだと思う。
もう1つ、逆に労働者側の問題。番組中で、生産ラインの課長をやっていて、月100時間の残業をしていた人が、一般職にさせられ、残業も届出制になり、やりにくくなったと言っていた。労働時間については束縛を受けたくない、と。しかしこれは大きな誤りだ。一般職であれ、管理職であれ、裁量労働制でない限り、かける時間は会社にとってのコストであり、それを労働者が決定する権利はないと思う。
ところで、「名ばかり管理職」を批判する人は、本当に「名ばかり管理職」がいやなのだろうか?もし残業もそんなになくて、「名ばかり管理職」だったらむしろうれしいくらいではないだろうか?つまり問題は「労働時間のわりに給料が安い」、という点にだけ焦点があたっており、「管理職としての権限をくれ」という方向には行っていない。
東京労働局が企業の「管理職と一般職の違い」を調査したところ、対外呼称の使用(名刺に課長と書ける、など)、いすに肘掛けがついている、などがあった。ちょっと笑えるが自分が以前働いていた会社ではいまだにこれが当てはまる。労働者側もこうしたまさに「名ばかり管理職」を目指すのではなく、本当の「管理職」を目指すような意識改革も必要だと思う。
最後に、番組で残業ができなくなって20時頃仕事を切り上げて不服そうに帰宅する元管理職を見て、一緒に見ていた妻は一言。「家族は喜んでるんじゃない?」 うーん、この問題は「仕事は何のためにしているのか」という根本的な問題でもあるのかもしれない。家族のインタビューも聞いてみたかったな。
| 固定リンク
「ビジネス」カテゴリの記事
- スターバックスVIAのマーケティング(2010.05.14)
- 王将の新人研修は自己啓発セミナーか?(2010.04.14)
- JAL(2010.01.26)
- カブドットコム証券の企業文化(2009.08.06)
- 日本の新聞のビジネスモデル(2009.06.18)
この記事へのコメントは終了しました。
コメント