新銀行東京
最近話題の新銀行東京。私がビジネス・スクールにいる頃にちょうど開業準備室のスタッフを募集していて、「新しい銀行を一緒に作ろう」みたいな大々的に感じでスタッフを集めていた記憶がある。
この銀行に対して、都が400億円の追加投入をするかどうかで都議会が揺れている。石原知事いわく、「死にそうになっている人間なんだから、人工呼吸か心臓マッサージをしないと、死んでしまっては元も子もない」そうだ。
この銀行はそもそも、石原都知事が2003年の知事選で貸し渋りに悩む中小企業の支援策として掲げたもので、2年後に開業している。
まず、この銀行の問題の出発点はこのタイミングにある。公約から2年が経って開業する頃には、銀行の不良債権処理も終了し、銀行は既に中小企業に金を貸していた。つまりそもそも機を逸して作らなくても良いものだったのではないだろうか。
それでも貸し出しの実績を作らなければ事業が成立しないので、無担保・無保証の自動審査システムによって、「スピーディに」融資をした。つまり「財務情報」だけで融資したのだが、結果として2004年以降に融資した中小企業の30%に及ぶ4000社が債務超過の状態だったのだ。いかに中小企業の財務情報があてにならないか、ということだろう。
最近のニュースではこの「貸した金」の側面ばかりが取り上げられているが、本当に問題はそれだけだろうか。銀行のビジネスといえば、お金を集めてそれを貸す。そう、集める側に問題がないのか調べてみた。
新銀行東京は、4300億円の預金を集めているが、多くは「特別金利キャンペーン」で集めたものらしい。例えば5年定期で1.7%もの金利がつく、とうたって預金を集めたものだ。これが2006年9月まで大々的に行われたのだが、これが満期になるのは2011年9月。そのときに高金利の預金を返すことができるのかが、新銀行東京のタイムリミットである。石原知事はなぜそうした話を具体的にせず、とにかく今をしのごうとしているのか?石原知事の任期が2011年4月までなのがその答えなんじゃないだろうか。
つまり、今とりあえず資金を投入して銀行を存続させる。当然再建は難しい。(今示されている黒字化に向けてのP/Lシミュレーションでは、黒字になる3年後は貸倒引当金がゼロという、ありえない前提になっているし・・・)
そして石原知事が退任した後、とうとう定期預金を返せずにギブアップする。というシナリオが一番ありそうなストーリーだ。
今400億円を投入しないともっと損失が大きくなる、と石原知事は説明しているが、再建可能性が限りなくゼロに近い以上、これ以上コストをかけないことがトータルで一番損失を小さくする唯一の方法だろう。資金を投入するとしたら預金者保護のためだけにするべきだ。
都は、ずさんな融資をした前経営陣に責任がある、としているが、そもそもこの組織は設立自体に問題があるわけで、「作った人の責任」が一番大きいんじゃないかな。
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