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富士フィルムが医薬に本格参入

富士フィルムっていったい何の会社だったっけ??写真のフィルムなんてもう見かけないし・・・といつも思うのだが、今日の日経一面はこのタイトルの記事だった。富士フィルムがインフルエンザやリウマチの薬を開発している富山化学を買収する。しかも20%~30%のプレミアムを燃せてTOBをかけるので、買収総額は1000億円を超える見通しだと。これによって、富山化学の筆頭株主である大正製薬とも連携することになり、富士フィルムの資金で研究開発に特化した富山化学が新薬を開発し、大正製薬が子会社の大正富山製薬を通じて販売する。そんな構図を目指すのだろう。

改めて富士フィルムのIR資料を見ると、連結売上高が2.8兆円で純利益が340億円。売上の41%が「ドキュメント・ソリューション事業」、つまりゼロックスのコピー・プリンター関連。続いて37%が「インフォメーション・ソリューション事業」でここには医療画像関連、ライフサイエンス(健康食品や化粧品もある)、記録用メディア、レンズが含まれる。そして22%が「イメージング・ソリューション」、これが昔からの写真用フィルム、デジカメだ。

1.多角化の妥当性

富士フィルムの意思決定は、「さらに多角化を加速化する」というものだ。これは現代のファイナンスの常識に真っ向から挑戦するものだろう。つまり多角化は企業価値を損なう、という「コングロマリット・ディスカウント」への挑戦だ。

ただし、金融関連の人は、多角化というだけで経営資源が分散されるとか、事業のシナジーがないので、「ああ、それはコングロマリット・ディスカウントだから失敗だ。GE?あれはジャック・ウェルチがいたからうまくいっただけで、多角化で成功した唯一の例外だ」と決めてかかるが、海外のファイナンスの世界ではそれに反論する議論も近年多い。こちらの言い分は簡単に言うと「多角化がダメなのではなく、ダメな企業が多角化しがちなだけではないか」という感じだろうか。なので、企業全体の事業リスクを低減するような良い多角化戦略もあるはずだ。

そこまで考えても、富士フィルムの事業ドメインのくくり方はさっぱりわからない。なぜライフサイエンスとカメラのレンズが同じくくりに入るのか?中規模事業の寄せ集めという印象を受けてしまう。

2.医薬事業への参入の妥当性

日経には「高齢化社会の到来で安定した需要が見込める医薬市場へ参入」とあるが、そんなにおいしい業界なら近年の業界再編成の動きが説明できないだろう。今回も「欧米では既に再編が進み、多額の研究開発費を捻出できる規模でなければ生き残れない」とされているが、欧米の製薬会社は既に多額の投資に見合うだけの新薬に恵まれず、研究開発部門のリストラという次の段階を迎えている。当然だが、規模が大きければ良いというものでもないわけだ。当たり前だけど。

そうは言ってもある程度の投資は必要だが、この規模の企業買収では、「医薬事業へ本格参入」とはちょっと言えないだろう。なのに1000億も出してしまう。赤字企業なのに・・・。なんとも中途半端な入り方だ。

富士フィルムが「医薬へ参入」と書かれるのは今回が初めてではない。2006年にはバイオベンチャーのペルセウス・プロテオミクスを買収し、2008年には生活習慣病診断システムの発売を目指すとしていたし、同じ年には放射性検査薬の第一ラジオアイソトープ研究所を買収している。これらの事業は順調に成長しているのだろうか?ただ買っただけになってはいないだろうか?

豊富な資金力と基礎技術の応用で医薬事業に・・・・というと思い出すのはJTだ。あれだけお金をかけて中堅メーカーも買収したのに、1980年代の参入以降自社開発の医薬品の発売には至っていない。

以上の通り、富士フィルムの富山化学買収は、非常に中途半端な意思決定に思える。そもそも「今までは予防・検査・治療」のうち検査が中心だったので、「治療」に進出する、という説明では納得ができない。なぜ空いている隙間を埋めなければならないだろうか?

さらには、「治療」の事業が重要だと考えるなら他の打ち手があるだろう。今後も様々な業種の小さな会社をいろいろ買い物して、P/Lを拡大していくのだろうか?だとすると、多角化のデメリットがもろに出てくることになるだろう。日経の記事は非常に好意的なトーンだけど・・・

ところで富士フィルムの会社説明では写真フィルム事業の「構造改革」を終了した、というように「構造改革」という言葉が使われる。もはや死語で笑ってしまうが、内容は工場・流通などの人員リストラ、研究開発投資の大幅縮小、現像ラボの拠点統廃合なんだそうだ。なーんだ、「リストラ」じゃないか。日経もわかりやすくそう書けばいいのになあ。

もうひとつ最後に、今日の日経の富士フィルムの記事の隣りには、スカパーが宇宙通信を買収するという記事が載っていた。ページをめくるとヤフーがマイクロソフトによる買収案を拒否、の記事。さらにはレナウンの社長・会長が業績回復の遅れで株価が半値に下落して(筆頭株主である投資ファンドからの圧力?)同時退任の記事。ほんの数年前は買収とかTOBの記事も珍しかったのに、これも今の時代ならではだろうか。

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コメント

富士フィルムのフィルム開発で培った多種のコラーゲンや抗酸化に
関する知見とナノ化技術などが詰まっているスキンケア製品.
フィルムの主成分はコラーゲン。

フィルム事業が振るわなくなったから化粧品業界へ多角化したというわけではなかった。

もともと富士フィルムは医療分野も事業の大きな柱となっているため、化粧品業界への参入は大きな転換というわけでもなく、この延長とフィルムで培った技術を応用して考えられたある種必然の展開ともいえる。

まさに「コアコンピタンス」を活かした事例だ。

投稿: | 2011年11月17日 (木) 14時34分

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