顧客志向とは何だ?
23日の日経新聞に、「感情労働」という言葉が出ていた。これは自分の感情を押し殺し、相手に合わせた言葉や態度で対応しなければならない仕事のことで、アメリカの社会学者ホックシールドが肉体労働、頭脳労働と並ぶ第3の労働形態として名づけたものとのこと。日本でも働く人の3人に1人が感情労働に関わっているという見方があるという。
「サービス」というのはコストを無視してかけていくと際限がない。特に日本では客側の要求水準が海外よりも高いだろうから、客の要求はこれまた際限がない。しかも悪いことに、支払う対価と関係がなく、常に最高のサービスを要求するようになっている。日経にも例が出ていたが、コンビニで売り物の地図をコピーする人がいたり、持ってきたカップラーメンにお湯だけ入れて帰る人がいたりする。あ、買い物もしないのにトイレに入ることは自分でもあるなあ・・・
このように企業が客に対するサービスをエスカレートする背景に「顧客志向」という言葉がある。自分の会社でも、ユーザーが何かを要求してきて、会社の基準に合わないからといって応えることができない時、「うちの会社は内向きで、顧客志向でない」と愚痴を言う人がいる。もともと「顧客志向」とは、会社の行動を決めるときに「顧客の立場に立って」考える、という意味だと思うんだけど、「顧客の要求に会社として最大限に柔軟に対応する」というように思っている人が増えているのではないだろうか。
1.お客様は神様か?
このフレーズはこうした誤解を招く元凶かもしれない。お客様は神様では決してない。何しろ過ちを許してくれない(笑)。無茶を言うし、間違えもする。
「うちの会社はお客様が払ってくれたお金のおかげで成り立っている」という企業経営者も多いが、そんなことを言うから客が「お金を払っているんだから言うことを聞け」と勘違いをするのだ。
会社というのは客が支払う対価以上のものをサービスとして渡すわけなので、あくまで対等なパートナーだ。
2.「顧客志向」は誰のため?
ここで「客とパートナーになるなんて難しい」、と普通は思うだろう。
そう、実際はひたすら客の言うことを聞いているほうが楽なのだ。客に対しては自分の感情を押し殺して「感情労働」をし、それを本社に「顧客志向なんだったら客の願いをかなえてくれ」とそのままぶつける。かなわなかったら「うちの会社は顧客志向でない」と仲間と愚痴を言う。
従って、「顧客志向」という言葉は、
(1)横暴な消費者に対して「感情労働」に徹するために、弱い立場にある最前線社員の拠りどころだろうか。「顧客志向なんだから自分が耐えなければ」という感じ。
(2)そしてそのストレスを会社にぶつける上での共通言語か。「顧客志向なんだったら全て聞いてやってくれ」というような。
いずれにしても、顧客に立ち向かう自分達のための合言葉になってしまっているのではないだろうか。
何でも客の言うことを聞いている人が、客から、会社から、信頼を得ているわけでもない。「客はこう考えるだろう」と常に一歩先を読み、会社にとってもいい方向にうまく誘導する人。こういう姿勢が本当の意味での「顧客志向」なんじゃないだろうか。
それにしても「感情労働」に相当する人が3分の1とはちょっと多い気がする。ここには社外に対して「感情を押し殺して」業務をしている人に加えて、社内に対しても「文句を言わずに指示された通りに仕事をする」人が含まれているのだろう。肉体労働や頭脳労働は、周囲からも会社からも様々な形で報われるけど、感情労働は報われないだろうなあ。「あの人はどんな屈辱にも顔色ひとつかえずに上司の指示に従う」なんて、逆にマイナスだ。これが社外に対する「感情労働」であれば、何らかの形で報いなければいけない。「スマイル0円」じゃ社員は納得できないだろう。
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