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2008年2月

ダイエット・逆転の発想

ダイエット食品やエステの広告でよく見かけるダイエット前・後の写真。

ネットを見ていたら、あるダイエット食品の減量前・後の写真のモデルのバイトをした人の話があった。あくまで悪徳広告の例だけど。

減量前・後の写真で悪徳というと、その商品を飲んだりするだけでなく、あらゆる手を使って痩せさせて、写真を撮るのかな、と思ったら、全く逆だった。

まず1回目、普通に写真を撮る。

そしてこういわれたそうだ。「次回の撮影までに10kg以上太ってきてください。」

それから2回目の撮影まで、食べに食べてゴロゴロして、1回目と同じ服を着て2度目の撮影をしたとのこと。

そう、減量後の写真を撮った後、減量前の写真を撮ったと言う話だった。

まさに逆転の発想というか、単純な話だけど想像もできなかったので思わず書き残してしまった・・・。

ちょっとした発想法のトレーニング、ということで。

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スターバックス vs. マクドナルド

今朝会社に行く途中、マクドナルドの店員が交差点で、テーブルにコーヒーポットと紙コップを並べて、「振る舞いコーヒー」をしているところに出くわした。マクドナルドのコーヒーがおいしくなったので、ぜひどうぞ!というキャンペーンだ。

自分はスターバックスをよく利用する。朝、会社に行く前に本を読んだり、休みに子供を連れて行って一休みしたり。相変わらず混んでいる店が多いが、以前のように座るのに並ぶほどでもない。スターバックスは毎月の売上、客数、客単価の前年比をタイムリーに公表しているのだが、2007年は既存店の客数は前年比下がっている月が多い(だいたい96%からよい月で100%)。それでも売上高は100%を毎月クリアしているのは客単価がアップしているおかげだ。確かに以前に比べるとコーヒーだけでなく、一緒にドーナツやケーキを食べている人が目に付く。

そんなスターバックスも本家米国では深刻な経営不振だ。2007年第4四半期の決算も、ワールドワイドでは好調だが、米国の既存店売上は減少している。今年赤字店舗を100店閉鎖することも発表しているし、3月の株主総会では600人の人員削減を含むリストラ案を発表することになっている。

この原因がマクドナルドなのだ。日本から考えるとちょっとぴんと来ないけどなあ。

マックが各店舗に専用のコーヒーコーナーを設けて、本格的なマシーンを置き、専用スタッフがエスプレッソを入れる、または高級豆を使った「プレミアム・ロースト」というコーヒーを投入したところ、スタバに流れていた朝食客を取り戻したというのだ。

そうしたところに追い討ちをかけたのが、雑誌「Consumer Reports」の3月号。スタバ、マック、ダンキンドーナツ、バーガーキングの4店のコーヒーの飲み比べ特集記事があり、1番おいしいコーヒーは一番安いマクドナルドだ、と結論づけたのだ。これはNew York Postでも取り上げられて話題になり、スタバは先日17:30~21:00に全米の全店舗を閉め、おいしいコーヒーを入れるトレーニングを行ったほどだ。もっともこれは写真入りで詳細にウェブサイトでもレポートされているので、広告的色彩が強いけど。

ちなみにマックの評価は「ほどほどにカフェインも強い。微妙な味わいには欠けるが特に欠点もない」。対するスタバは「苦い、こげたような味」。ダンキンはちょっと落ちて、「薄い、水っぽい、なのにスタバより高い。不快ではないが魅力なし」。バーガーキングにいたっては「コーヒーのように見えるが、味はお湯のよう」・・・。

1.スタバとマックは競合なのか?

日本で考えると、どう考えても客層は重ならない。まして米国でのマックの位置づけは日本よりも相当低いと思う。マックは「食事」を売っていて、スタバは「自宅以外に過ごす第3の場所」を売っているという感じがするのだが、そんなスタバが客単価アップのために「食事」を売ることに力を入れると米国のように競合するようになるのだろうか?ということは、今朝マックがコーヒーに力を入れるのを見てピンと来なかったけど、日本でもスタバ vs. マックの競争が近い将来始まるのだろう。

2.やっぱりアメリカ人は濃いコーヒーが嫌いなのか?

そもそもスタバが広まった背景に、それまでなかった煎りの深いコーヒーが珍しかった、というのがあると思うが、やはり元来濃いコーヒーは嫌いだ、というだけのことなのだろうか。それとも店舗数が増えるに連れて品質が均一でなくなり、味が落ちていったということか?

ということで、マックの今後のコーヒー戦略、特に対スタバの打ち手は注目したいと思う。ところで日本にはそれ以外に「ドトール」という強敵がいる。これがなかなか独特の存在で、戦略も明確な会社だ。ドトールといえば、あまり行き慣れない年配の人がカウンターでで「ホットコーヒー」と注文すると、「サイズは普通でいいですか?」と聞かれ、「は、はい」と答えている場面に出くわしたことが何度もある。出てくるのはMサイズだ。ドトールのウェブサイトには「コーヒーを飲んでゆっくりしてもらうためには、Mサイズが適切だと考えるので薦めている」と書いてあるが、なかなか戦略的だ。

プライシングも独自路線。ドトールといえばSサイズのコーヒーが1杯180円。あ、来月から200円に値上げするらしいけど。いずれにしてもスタバ等に比べると安い、という印象がある。でも1mlあたりの値段で比較するとどうだろう。スタバが240mlで280円、タリーズは240mlで290円(タリーズはいつもスターバックスの値段よりちょっと高く、後から追随して値上げします)、そしてドトールが140mlで180円。1ml当りの値段はそれぞれ1.17円、1.21円、1.29円(しかも来月からは1.43円)となって、ドトールが一番高いのだ。面積あたりの座席数も圧倒的に多いし、収益性の面では徹底的に計算されているのだろうなあ。

対するスタバは、数年前のブームが去ってコストを見直したときに、それまではヒラ積みにしていた紙ナプキンをケースに入れて1枚ずつ力を入れて引っ張り出すようにして消費量を抑えた、という話を聞いたことがある。あまりそういう方向に行くと、せっかくのプレミア感が損なわれるので、ドトール(もしくは将来的にはマック)と同じ競争の土俵に乗らない方が良いと思うがどうだろう。

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サッポロが買収提案に反対を表明

先日も書いたサッポロ・ホールディングス vs. スティール・パートナーズの買収の件で、今日ニュースがあった。サッポロの取締役会が買収提案に対して「株主全体の利益を著しく損なう恐れがある」として、反対することを表明した。

村上社長は記者会見で「スティールはひたすら自らの利益を追求する存在としてふるまう可能性が十分にある」と述べたとのこと。十分にあるのではなく、100%そうだ。ただ自らの利益と言うよりは出資者の利益だろうけど。それの何に問題があるのだろうか?

また、真摯に経営に参加する意思がなく、支配株主としての責任ある行動を取ろうとしない、とも言っている。スティールが果たしてそういう存在かどうかがここでは問題視されているが、それよりも問題なのは、サッポロはどのようなファンドが相手であれこのような反応をしただろう、ということだ。仮に真摯に経営する意思を持ったファンドが来たとしたら、支配株主としての責任ある行動というのはひょっとしたら経営権を奪って株主資本価値を最大化させることかもしれない。スティールが「建前上」意見しているように。それともサッポロは、支配株主は経営に波風を立てずに現経営陣に任せておけばいい、と言いたいのだろうか。

村上社長は、スティールが買収後の経営方針としてあげた「高級ビールや不動産など特定分野に絞った事業計画」を、買収後の経営方針として認めていない旨の発言をした。ではサッポロが2月15日に発表した2008~2009年の経営方針&2016年に向けた(創業140周年:この設定自体が自意識過剰というか、株主には関係ないと思うが・・・)中期経営方針を読んでみよう。

これからの2年間の施策は「持続的成長へ向けた取り組み」と、「強みを生かした事業展開と収益基盤の強化」というのが大テーマ。内容を読んでみると、「高付加価値の創造」とか「グループシナジーの拡大」といった、どこの会社の中期計画にも書いてあるような抽象的な言葉が並んでいる。その中に「国内酒類事業での高付加価値化への転換」「不動産事業でのグループ資産を中心とした価値向上」と書いてある。あれ、どこかで読んだような気が・・・そう、スティールが言っていることと同じなのだ。

サッポロは文書の中でも「当社の経営には幅広いノウハウと豊富な経験、そしてステークホルダーとの関係への理解が不可欠」としているが、この経営計画を見る限り現経営陣の幅広いノウハウを垣間見ることはできない。仮にそれを持っているとしても、株主に対してそれを伝えられない限りは持っていないとの同じだ。

そんなサッポロは、とりあえずスティールの出方を見るようだ。考えられる打ち手はこんな感じだろうか。

1.どこかに助けてもらう: スティール vs. 明星のときの日清のような感じ。ただサッポロは文書の中でスティールからホワイトナイトを探すよう示唆されたことに非常に不快感を持っているようなので、これはないかもしれない。

2.自分達の方が、スティールの示すプレミアムよりも企業価値を向上させることができる、と株主を説得する: これが本来の筋だろう。サッポロは今月中期計画を発表しているところを見ても、こうしようとしているのかもしれない。あまり説得力は感じられないが。

3.MBOして経営陣で買収してしまい、非上場化する: 本当に会社を守ろうというならこれも筋だ。でもそこまでする意思決定も今の経営陣には難しいだろう。

4.スティールがTOBをかけてきたら買収防衛策を発動して、株主の資金でスティールに儲けさせ、お引取り願う: ブルドックのケースと同じ。

もう4しか考えられないだろう。また海外投資家から呆れられることになりそうだ。

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顧客志向とは何だ?

23日の日経新聞に、「感情労働」という言葉が出ていた。これは自分の感情を押し殺し、相手に合わせた言葉や態度で対応しなければならない仕事のことで、アメリカの社会学者ホックシールドが肉体労働、頭脳労働と並ぶ第3の労働形態として名づけたものとのこと。日本でも働く人の3人に1人が感情労働に関わっているという見方があるという。

「サービス」というのはコストを無視してかけていくと際限がない。特に日本では客側の要求水準が海外よりも高いだろうから、客の要求はこれまた際限がない。しかも悪いことに、支払う対価と関係がなく、常に最高のサービスを要求するようになっている。日経にも例が出ていたが、コンビニで売り物の地図をコピーする人がいたり、持ってきたカップラーメンにお湯だけ入れて帰る人がいたりする。あ、買い物もしないのにトイレに入ることは自分でもあるなあ・・・

このように企業が客に対するサービスをエスカレートする背景に「顧客志向」という言葉がある。自分の会社でも、ユーザーが何かを要求してきて、会社の基準に合わないからといって応えることができない時、「うちの会社は内向きで、顧客志向でない」と愚痴を言う人がいる。もともと「顧客志向」とは、会社の行動を決めるときに「顧客の立場に立って」考える、という意味だと思うんだけど、「顧客の要求に会社として最大限に柔軟に対応する」というように思っている人が増えているのではないだろうか。

1.お客様は神様か?

このフレーズはこうした誤解を招く元凶かもしれない。お客様は神様では決してない。何しろ過ちを許してくれない(笑)。無茶を言うし、間違えもする。

「うちの会社はお客様が払ってくれたお金のおかげで成り立っている」という企業経営者も多いが、そんなことを言うから客が「お金を払っているんだから言うことを聞け」と勘違いをするのだ。

会社というのは客が支払う対価以上のものをサービスとして渡すわけなので、あくまで対等なパートナーだ。

2.「顧客志向」は誰のため?

ここで「客とパートナーになるなんて難しい」、と普通は思うだろう。

そう、実際はひたすら客の言うことを聞いているほうが楽なのだ。客に対しては自分の感情を押し殺して「感情労働」をし、それを本社に「顧客志向なんだったら客の願いをかなえてくれ」とそのままぶつける。かなわなかったら「うちの会社は顧客志向でない」と仲間と愚痴を言う。

従って、「顧客志向」という言葉は、

(1)横暴な消費者に対して「感情労働」に徹するために、弱い立場にある最前線社員の拠りどころだろうか。「顧客志向なんだから自分が耐えなければ」という感じ。

(2)そしてそのストレスを会社にぶつける上での共通言語か。「顧客志向なんだったら全て聞いてやってくれ」というような。

いずれにしても、顧客に立ち向かう自分達のための合言葉になってしまっているのではないだろうか。

何でも客の言うことを聞いている人が、客から、会社から、信頼を得ているわけでもない。「客はこう考えるだろう」と常に一歩先を読み、会社にとってもいい方向にうまく誘導する人。こういう姿勢が本当の意味での「顧客志向」なんじゃないだろうか。

それにしても「感情労働」に相当する人が3分の1とはちょっと多い気がする。ここには社外に対して「感情を押し殺して」業務をしている人に加えて、社内に対しても「文句を言わずに指示された通りに仕事をする」人が含まれているのだろう。肉体労働や頭脳労働は、周囲からも会社からも様々な形で報われるけど、感情労働は報われないだろうなあ。「あの人はどんな屈辱にも顔色ひとつかえずに上司の指示に従う」なんて、逆にマイナスだ。これが社外に対する「感情労働」であれば、何らかの形で報いなければいけない。「スマイル0円」じゃ社員は納得できないだろう。

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空港の外資規制

国土交通省が今の国会で通そうとした空港整備法改正案が紛糾している。日本の玄関である成田空港、羽田空港の運営会社の外国人株主保有比率を3分の1未満に制限するという内容だ。

きっかけは、羽田空港の管理会社である日本空港ビルディングの株式の20%を、オーストラリアのファンドであるマッコーリー・エアポーツが取得したことであり、国土交通省は大地震の緊急事態が発生したときなど、外資が入っていると迅速な対応が取れないとコメントしている。また成田空港の管理会社の社長も、「日本の表玄関を外資にコントロールされることは国民にとって問題である」と述べている。先日のダボス会議でも福田首相は「市場開放の努力を一層進める」と言ったばかりだが、日本は外資から隔離して鎖国でもしようというのだろうか??

1.外資がなぜダメなのか?

まず論争の1つとして、外資だとコントロールできなくて、日本のファンドだとコントロールできるのか?という点がある。同じカネでも、外国人だと何か困ることでもあるのだろうか?単なるナショナリズムではないだろうか?

今、日本の企業は実質的に外資系が過半数を持っている企業も多い。問題は株主は何人か、ではなく、どのようなポリシーの人が株主なのか?だと思う。

2.なぜ空港が問題なのか?

日本の表玄関ということで、空港を支配されることは何か象徴的なことなのだろうか。国家安全の象徴的できごとか?

まず外資の資本参加で国の安全保障や公的秩序維持に支障が出る場合は、国が外為法に基づき出資・買収の中止命令を出すことができる。それで十分対応可能だし、それでも心配ならば彼らの行動に制限を法的につければいいわけで、何も出資を制限しなければならない理由はない。

この法案に対する批判として、羽田・成田の運営会社には官僚が役員としえ天下りしており、外資が入ると天下りできなくなるからではないか、との声がある。これにどう反論するのか。読売新聞2月9日付け社説では、それは考えすぎで民営化が進めば天下りなどできないと書かれているが、あまり考えなくても推測できるだろう。

3.そもそも何を目的に民営化したのか?

今回のごたごたは上に書いたように外国人投資家に対する不安と安全保障上の必要性の2点から議論されているが、最大の疑問はこれ。そんなに国家にとって大切なものだったらなぜ民営化したのか?ということだ。

民営化とはサービスを民間に任せることであり、上場とは外国人投資家も含めて広く投資を募ることだ。それを進めておいてやっぱり心配だから後から国が制限をつける、というのは海外からみると全く理解不能だろう。

民間企業は外資ファンドを「買収防衛策」で排除し、国も空港への外資流入を排除する。ファイナンスの世界では既に日本は資本主義から抜け出し、鎖国の体制に入りつつあるのかもしれない。それも読売新聞に言わせれば「考えすぎ」なんだろうか?もう少し考えた方がいいと思うけど。

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富士フィルムが医薬に本格参入

富士フィルムっていったい何の会社だったっけ??写真のフィルムなんてもう見かけないし・・・といつも思うのだが、今日の日経一面はこのタイトルの記事だった。富士フィルムがインフルエンザやリウマチの薬を開発している富山化学を買収する。しかも20%~30%のプレミアムを燃せてTOBをかけるので、買収総額は1000億円を超える見通しだと。これによって、富山化学の筆頭株主である大正製薬とも連携することになり、富士フィルムの資金で研究開発に特化した富山化学が新薬を開発し、大正製薬が子会社の大正富山製薬を通じて販売する。そんな構図を目指すのだろう。

改めて富士フィルムのIR資料を見ると、連結売上高が2.8兆円で純利益が340億円。売上の41%が「ドキュメント・ソリューション事業」、つまりゼロックスのコピー・プリンター関連。続いて37%が「インフォメーション・ソリューション事業」でここには医療画像関連、ライフサイエンス(健康食品や化粧品もある)、記録用メディア、レンズが含まれる。そして22%が「イメージング・ソリューション」、これが昔からの写真用フィルム、デジカメだ。

1.多角化の妥当性

富士フィルムの意思決定は、「さらに多角化を加速化する」というものだ。これは現代のファイナンスの常識に真っ向から挑戦するものだろう。つまり多角化は企業価値を損なう、という「コングロマリット・ディスカウント」への挑戦だ。

ただし、金融関連の人は、多角化というだけで経営資源が分散されるとか、事業のシナジーがないので、「ああ、それはコングロマリット・ディスカウントだから失敗だ。GE?あれはジャック・ウェルチがいたからうまくいっただけで、多角化で成功した唯一の例外だ」と決めてかかるが、海外のファイナンスの世界ではそれに反論する議論も近年多い。こちらの言い分は簡単に言うと「多角化がダメなのではなく、ダメな企業が多角化しがちなだけではないか」という感じだろうか。なので、企業全体の事業リスクを低減するような良い多角化戦略もあるはずだ。

そこまで考えても、富士フィルムの事業ドメインのくくり方はさっぱりわからない。なぜライフサイエンスとカメラのレンズが同じくくりに入るのか?中規模事業の寄せ集めという印象を受けてしまう。

2.医薬事業への参入の妥当性

日経には「高齢化社会の到来で安定した需要が見込める医薬市場へ参入」とあるが、そんなにおいしい業界なら近年の業界再編成の動きが説明できないだろう。今回も「欧米では既に再編が進み、多額の研究開発費を捻出できる規模でなければ生き残れない」とされているが、欧米の製薬会社は既に多額の投資に見合うだけの新薬に恵まれず、研究開発部門のリストラという次の段階を迎えている。当然だが、規模が大きければ良いというものでもないわけだ。当たり前だけど。

そうは言ってもある程度の投資は必要だが、この規模の企業買収では、「医薬事業へ本格参入」とはちょっと言えないだろう。なのに1000億も出してしまう。赤字企業なのに・・・。なんとも中途半端な入り方だ。

富士フィルムが「医薬へ参入」と書かれるのは今回が初めてではない。2006年にはバイオベンチャーのペルセウス・プロテオミクスを買収し、2008年には生活習慣病診断システムの発売を目指すとしていたし、同じ年には放射性検査薬の第一ラジオアイソトープ研究所を買収している。これらの事業は順調に成長しているのだろうか?ただ買っただけになってはいないだろうか?

豊富な資金力と基礎技術の応用で医薬事業に・・・・というと思い出すのはJTだ。あれだけお金をかけて中堅メーカーも買収したのに、1980年代の参入以降自社開発の医薬品の発売には至っていない。

以上の通り、富士フィルムの富山化学買収は、非常に中途半端な意思決定に思える。そもそも「今までは予防・検査・治療」のうち検査が中心だったので、「治療」に進出する、という説明では納得ができない。なぜ空いている隙間を埋めなければならないだろうか?

さらには、「治療」の事業が重要だと考えるなら他の打ち手があるだろう。今後も様々な業種の小さな会社をいろいろ買い物して、P/Lを拡大していくのだろうか?だとすると、多角化のデメリットがもろに出てくることになるだろう。日経の記事は非常に好意的なトーンだけど・・・

ところで富士フィルムの会社説明では写真フィルム事業の「構造改革」を終了した、というように「構造改革」という言葉が使われる。もはや死語で笑ってしまうが、内容は工場・流通などの人員リストラ、研究開発投資の大幅縮小、現像ラボの拠点統廃合なんだそうだ。なーんだ、「リストラ」じゃないか。日経もわかりやすくそう書けばいいのになあ。

もうひとつ最後に、今日の日経の富士フィルムの記事の隣りには、スカパーが宇宙通信を買収するという記事が載っていた。ページをめくるとヤフーがマイクロソフトによる買収案を拒否、の記事。さらにはレナウンの社長・会長が業績回復の遅れで株価が半値に下落して(筆頭株主である投資ファンドからの圧力?)同時退任の記事。ほんの数年前は買収とかTOBの記事も珍しかったのに、これも今の時代ならではだろうか。

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サッポロの買収防衛策

昨年のブルドックソースに続いて、日本のファイナンスに疎い株主にとって悪夢がやってくることになりそうなこのニュース。

サッポロが、スティール・パートナーズ(ブルドックでもおなじみの投資ファンド)からのTOB提案に対し、1月8日に「外部」の「特別委員会」に対して 1)この買収提案は企業価値を向上させるか? 2)この買収は濫用目的か? を質問していたのに対し、 1)企業価値は向上しない 2)濫用的買収者であるかは判断しない(関係ない) と報告をしたのだ。これに対してサッポロは3月5日までにこの意見を「参考に」して、買収防衛策を発動するかを決定することになる。

「特別委員会」は1ヶ月間かけてなぜこのような判断をしたのか?公式の見解書が今日公開されたので読んでみると、大筋このような内容である。

1.投資ファンドは資金提供者に対しリターンを生むのがビジネスだ。ということはサッポロを買収した後に、所有する土地を処分して投下資本を回収しようとするだろう。従ってこの買収は企業価値を損ねる可能性がある。

2.スティールの提案している「企業価値向上のアプローチ」には、買収後の経営陣をどうするかは述べられていない。従って強圧的な買収になる可能性がある。

うーん、何が書いてあるのか自分にはさっぱりわからない。

反論1.所有する土地を処分したらどうして企業価値が損なわれるのか?一見正しいことを書いているようだが、「会社の資産を損なう」と「企業価値を損なう」をすり替えているだけのことだ。株主から高いコストで資金を集めて、それを無駄な資産に投資して(サッポロでいうところの恵比寿ガーデンプレイス)、十分な利益を上げていないのは経営陣の責任ではないのか?無駄な資産があるのなら、それを売却して現金化し、配当などの形で株主に返す、もしくは自社株を買うなどした方が企業価値は当然向上する。

反論2.スティールは「赤字事業を縮小し、得意事業に特化する」と言っているので任せるに十分だと思うが、なぜ現経営陣をそのまま起用しないと「強圧的」なのか?サッポロは膨大な有形固定資産を抱えて収益性も低いのだから、現経営陣の経営能力は客観的にみて問題があるのは明らかであり、現経営陣を起用することを明言する方が、株主にとっては不安ではないだろうか。つまり、スティールが「企業価値を向上しない」のならば、現経営陣は「企業価値を損ねない」ことを説明できるのか?ということだ。ちなみにサッポロは2004年に所有するウェスティンを500億円でモルガン・スタンレーに売却しているのだが、先日それがシンガポールの政府系投資会社に売却されたというニュースがあった。その金額はなんと770億円。2004年というと不動産価格は上昇が見込まれていた時期であり、売却するよりもそのまま所有して運用したほうが企業価値を上げられただろう。にもかかわらず売却したのは、当時なりの「買収防衛策」だったのだと思うが、このように企業価値を下げた実績がある以上は、彼らがスティールを上回る経営能力を株主に証明するのは難しい。

ここで感じる問題点。ブルドックのときと構図は同じだ。

1.いったい誰が何から何を守ろうとしているのか?

買収防衛策とは、別に会社が敵対的買収者から株主の利益を守ろうとしているのではない。単に経営陣が敵対的買収者から自分の利益・権利を守ろうとしているだけのことだ。しかも短期的に。

2.結局誰が得をして、誰が損をしているのか?

まず得をするのは経営陣。ずーっと働いてようやくたどり着いた取締役のポジションを短期的にせよ死守できる。そして彼らに防衛策を授けたアドバイザー。ブルドックでいえば野村證券で、彼らはブルドックから救世主として感謝され、手数料と今後の取引を手に入れることができる。そして忘れてはならないスティールパートナーズ。ブルドックの訴訟では彼らが負けているので、彼らは損をしている印象があるのかもしれないが、恐らく大きく得をしている。ブルドックでは1株396円=総額23億円で所有株式を利益確定できたわけなので。さらに一般株主に割り当てられた新株予約権が行使されると理論的には株価は大幅ダウンするので、それを見越していればブルドックからもらったキャッシュでさらに一儲けすることだって可能だ。(そうしていたかはわからないが)

逆に損をするのは誰か。そう。一般株主だ。ブルドックの株価はその後もファイナンスの教科書通り下がり、今では理論価格以下の239円になっている。結局はスティールの所有比率を下げるために、一般株主の投資した資金を使ってスティールに手切れ金を渡してお引取り願っただけのことだ。ただ、ブルドックの場合は株主総会で多数の株主が防衛策発動に賛成したわけなので、彼らの自業自得と言ってしまえばそれまでだけど。

3.「特別委員会」って何なんだ?

第3者のアドバイザリーということだが、誰が本気にするだろうか。メンバーは弁護士、富士通取締役、多摩大学長の3人だが、多摩大学長とはあの中谷巌さんだ。ハーバードのPh-Dを持つ経済専門家がメンバーにいて、ファイナンス的には全く基本以前の提言である。ぜひ彼のコメントをお聞きしたいものだ。ワールド・ビジネス・サテライトで話してくれないかな。

そして今回の話でも気になるのは、外資系投資ファンド=悪というお決まりの図式だ。確かにTOBには企業価値を損ねることが目的のものもある。以前NHKスペシャル「ヤクザマネー」でも取り上げられたように、ヤクザ資本が会社を買収して経営陣を送り込み、不当な配当や資産売却をして全て掃き出して倒産させるものだ(まさにハゲタカだ)。でもこれは海外の投資ファンドのやり方ではない。日本の外ではTOBにはセオリー通りの正論のTOB、つまり企業価値を向上させるTOBもあることを理解しなければならない。

ところでNHKドラマ「ハゲタカ」が昨年話題になったが、あの番組は外資系ファンド=ハゲタカ=金の亡者=悪 というイメージを日本の一般市民にまで定着させてしまった感じがする。外資系ファンドはそんなに単純なものではない。それをこのように例えた人がいる。

1.外資系ファンドはハゲタカのように手に入れた肉を生で食べない。(時にはソースをかける)

2.食べるときは手づかみでなく、ナイフで切り分けて食べる。

なかなかうまい例えだ。。。

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