昨年のブルドックソースに続いて、日本のファイナンスに疎い株主にとって悪夢がやってくることになりそうなこのニュース。
サッポロが、スティール・パートナーズ(ブルドックでもおなじみの投資ファンド)からのTOB提案に対し、1月8日に「外部」の「特別委員会」に対して 1)この買収提案は企業価値を向上させるか? 2)この買収は濫用目的か? を質問していたのに対し、 1)企業価値は向上しない 2)濫用的買収者であるかは判断しない(関係ない) と報告をしたのだ。これに対してサッポロは3月5日までにこの意見を「参考に」して、買収防衛策を発動するかを決定することになる。
「特別委員会」は1ヶ月間かけてなぜこのような判断をしたのか?公式の見解書が今日公開されたので読んでみると、大筋このような内容である。
1.投資ファンドは資金提供者に対しリターンを生むのがビジネスだ。ということはサッポロを買収した後に、所有する土地を処分して投下資本を回収しようとするだろう。従ってこの買収は企業価値を損ねる可能性がある。
2.スティールの提案している「企業価値向上のアプローチ」には、買収後の経営陣をどうするかは述べられていない。従って強圧的な買収になる可能性がある。
うーん、何が書いてあるのか自分にはさっぱりわからない。
反論1.所有する土地を処分したらどうして企業価値が損なわれるのか?一見正しいことを書いているようだが、「会社の資産を損なう」と「企業価値を損なう」をすり替えているだけのことだ。株主から高いコストで資金を集めて、それを無駄な資産に投資して(サッポロでいうところの恵比寿ガーデンプレイス)、十分な利益を上げていないのは経営陣の責任ではないのか?無駄な資産があるのなら、それを売却して現金化し、配当などの形で株主に返す、もしくは自社株を買うなどした方が企業価値は当然向上する。
反論2.スティールは「赤字事業を縮小し、得意事業に特化する」と言っているので任せるに十分だと思うが、なぜ現経営陣をそのまま起用しないと「強圧的」なのか?サッポロは膨大な有形固定資産を抱えて収益性も低いのだから、現経営陣の経営能力は客観的にみて問題があるのは明らかであり、現経営陣を起用することを明言する方が、株主にとっては不安ではないだろうか。つまり、スティールが「企業価値を向上しない」のならば、現経営陣は「企業価値を損ねない」ことを説明できるのか?ということだ。ちなみにサッポロは2004年に所有するウェスティンを500億円でモルガン・スタンレーに売却しているのだが、先日それがシンガポールの政府系投資会社に売却されたというニュースがあった。その金額はなんと770億円。2004年というと不動産価格は上昇が見込まれていた時期であり、売却するよりもそのまま所有して運用したほうが企業価値を上げられただろう。にもかかわらず売却したのは、当時なりの「買収防衛策」だったのだと思うが、このように企業価値を下げた実績がある以上は、彼らがスティールを上回る経営能力を株主に証明するのは難しい。
ここで感じる問題点。ブルドックのときと構図は同じだ。
1.いったい誰が何から何を守ろうとしているのか?
買収防衛策とは、別に会社が敵対的買収者から株主の利益を守ろうとしているのではない。単に経営陣が敵対的買収者から自分の利益・権利を守ろうとしているだけのことだ。しかも短期的に。
2.結局誰が得をして、誰が損をしているのか?
まず得をするのは経営陣。ずーっと働いてようやくたどり着いた取締役のポジションを短期的にせよ死守できる。そして彼らに防衛策を授けたアドバイザー。ブルドックでいえば野村證券で、彼らはブルドックから救世主として感謝され、手数料と今後の取引を手に入れることができる。そして忘れてはならないスティールパートナーズ。ブルドックの訴訟では彼らが負けているので、彼らは損をしている印象があるのかもしれないが、恐らく大きく得をしている。ブルドックでは1株396円=総額23億円で所有株式を利益確定できたわけなので。さらに一般株主に割り当てられた新株予約権が行使されると理論的には株価は大幅ダウンするので、それを見越していればブルドックからもらったキャッシュでさらに一儲けすることだって可能だ。(そうしていたかはわからないが)
逆に損をするのは誰か。そう。一般株主だ。ブルドックの株価はその後もファイナンスの教科書通り下がり、今では理論価格以下の239円になっている。結局はスティールの所有比率を下げるために、一般株主の投資した資金を使ってスティールに手切れ金を渡してお引取り願っただけのことだ。ただ、ブルドックの場合は株主総会で多数の株主が防衛策発動に賛成したわけなので、彼らの自業自得と言ってしまえばそれまでだけど。
3.「特別委員会」って何なんだ?
第3者のアドバイザリーということだが、誰が本気にするだろうか。メンバーは弁護士、富士通取締役、多摩大学長の3人だが、多摩大学長とはあの中谷巌さんだ。ハーバードのPh-Dを持つ経済専門家がメンバーにいて、ファイナンス的には全く基本以前の提言である。ぜひ彼のコメントをお聞きしたいものだ。ワールド・ビジネス・サテライトで話してくれないかな。
そして今回の話でも気になるのは、外資系投資ファンド=悪というお決まりの図式だ。確かにTOBには企業価値を損ねることが目的のものもある。以前NHKスペシャル「ヤクザマネー」でも取り上げられたように、ヤクザ資本が会社を買収して経営陣を送り込み、不当な配当や資産売却をして全て掃き出して倒産させるものだ(まさにハゲタカだ)。でもこれは海外の投資ファンドのやり方ではない。日本の外ではTOBにはセオリー通りの正論のTOB、つまり企業価値を向上させるTOBもあることを理解しなければならない。
ところでNHKドラマ「ハゲタカ」が昨年話題になったが、あの番組は外資系ファンド=ハゲタカ=金の亡者=悪 というイメージを日本の一般市民にまで定着させてしまった感じがする。外資系ファンドはそんなに単純なものではない。それをこのように例えた人がいる。
1.外資系ファンドはハゲタカのように手に入れた肉を生で食べない。(時にはソースをかける)
2.食べるときは手づかみでなく、ナイフで切り分けて食べる。
なかなかうまい例えだ。。。
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