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生命保険の営業が固定給に

明治安田生命が、営業職全員(3万人!!)の固定給比率を高めるというニュースがあった。入社5年目までは月1件、6年以上はつき2件程度のノルマをクリアすれば、固定給が従来の7万円から17万円に増える(現在は17万かせぐのに月3、4件必要)というものだ。日本の生保の営業というのは戦後の戦争未亡人の雇用口に始まった独特なものだが、今は新入社員の大半が入社2、3年でその厳しさから退職していくそうだ。これに対し、収入を安定させて離職率を低下させ、1年目の在籍率を70%程度まで高めることが目的だ。それでも30%は辞めるのか・・・。

ここまでが明治安田の発表だが、単に人手が足りないということに加えて次のような目的があるかもしれない。

1.対外資系生保に対する戦略

日系と外資の大きな違いは、日系はとにかく新規顧客の獲得を第一目標とするのに対し、外資は既存顧客にどんどん特約をつけて売上を増やしていくのをメインにしている、ということがあるだろう。外資はさらっと安い商品から契約できるが、その後次々と追加の契約の案内が来る(いわゆるアウトバウンド)。これに対抗するためには、日系も従来のようにどんどん紹介してもらって新規客を増やしていくスタイルから、アフターサービス重視のスタイルに転換していく必要があるのだろう。

2.対銀行に対する戦略

銀行窓口での生命保険販売が解禁されたが、これは想像だけど生保の営業員よりも銀行員の方が商品説明をきっちりできるのではないだろうか。信頼度も高いだろうし。

ということで、このニュースは今後業界他社に波及するものと思われるが、ここでいくつかこのニュースから読み取れる問題をまとめてみる。

1.生命保険自体の問題

日本は全世帯の93%が何らかの生保に加入している。その商品バラエティも増えてきており、低金利の時代にあってはもはや投資の一種ともいえる。しかし、生命保険に加入するのはいったいどうしてか?自分が死んだら家族が・・・とはいえ、そのお金を貯蓄するか運用するか、はたまた自分に投資して収入を増やすか、いずれにしても収入を増やして貯蓄でまかなうことだってできるじゃないか。または公的保障でカバーできるかもしれないし、安価な損害保険で十分かもしれない。しかし昔生保の営業員から言われたのは、だいたいは今入らないとどんどん保険料が高くなる、という説明だ。あとはだれだれさんが入っているとか、野球のチケットをあげるとか、飲み会をセッティングしてあげる、とか。ひどい人になると「入るかどうか迷う意味がわからない。入らない理由は何?」と言うおばさんもいた。まあ大半の人は何の疑いもなく何となく入っているんでしょう。

2.生命保険会社の問題

なぜ今回明治安田が先頭を切ったのか?おそらく2005年の明治安田の保険不払い問題がきっかけだろう。これは簡単に言ってしまうと「加入するときは病歴を隠させて加入させる。支払うときは病歴の告知義務違反だといいがかりをつけて保険金を支払わない」ということだ。この問題に端を発して、昨年金融庁は全生保会社38社に過去5年間の不正調査を命じたところ、1社を除く37社に不正がみられ、その件数は合計44万件、不払い金額は360億円にのぼり、やはりダントツで不払いが多かったのが明治安田である。

これを是正するため、つまり目先の契約を不正をしてでもとりにいく姿勢にブレーキをかけるための方針転換なのだろう。しかしこれは効果をあげるのだろうか?それは疑問だ。

ポイントは生保独特の企業形態である「相互会社」にあると思う。生保というのはもともとは株式会社だったが、戦後に生保にのみ許された「相互会社」へと転換した。これは保険の加入者が「社員」であり、営利追求を目的としない、相互互助のための「非営利社団法人」である。本来は加入者による「社員総会」が開かれ、会社のことが決められることになっているが、人数も多く煩雑なことから、加入者から選ばれた「総代」が集まって「総代会」を開催することでこれにかえて良いことになっている。

しかしこの「総代」を選んでいるのは生保自身である。取引会社の役員とか、地元の名士とかその夫人とか。実のない「名誉職」になっているのだ。従って生命保険会社には外部からのチェック機能は全く働かない。こんな状況で、従来の厳しい営業スタイルがそう簡単に変わるとはどうも思えない。

ちなみに相互会社から株式会社への転換は95年にようやく可能になり(その逆は以前からできたのに・・・)、経営基盤の安定とガバナンス強化を目的に大同生命、三井生命などが株式会社化している。

3.営業と報酬体系の問題

もうひとつ、生保とはなれて営業職と考えたときに、報酬は固定給が良いのか歩合制が良いのか、という問題がある。今回は歩合制のデメリット・固定給のメリットだけが強調されているが、今回の方針転換で本当に優秀な営業はより稼げる会社、業種に移動していくのではないか。歩合制のメリットである評価の公平性、低業績者の異動が比較的容易であるといった点は何も否定することはなく、営業職員の選択制にすれば良かったのではないだろうか(固定給中心の給与体系と業績給中心の給与体系の選択制)。いずれにしても会社が考えるモデル的な営業職員が高収入を得られるよう、報酬制度は設計しなければならない。

さて他社はどうでるかな。そういえば、生保の営業はGNPと言われているそうだ。G=義理、N=人情、P=プレゼント。なるほど。

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