ホワイトカラーの生産性
日本人は勤勉だ。2,3年前まで自分もそう思ってきたが、どうやらこれは日本人が自分でそう思っているだけのようで、海外と比較すると別にそうでもないようだ。
近年ホワイトカラーの生産性が低い、ということが言われる。残業代をなくす、「ホワイトカラーエグゼンプション」も、経団連(もっというとトヨタとキャノン)が進めようとしたがあっさり世論の反対にあって引っ込めた。それ以降あまりこの件には触れられなくなったかな。
トリンプ元社長の吉越浩一郎さんが最近退職して会社を作ったせいか、次々と本を出している。この会社は強制的に残業を禁止したり、午後一定時間は電話や会話を禁止して自分の仕事に集中する時間を作ったり、かなりユニークなことをやった人だ。本はというと、まだ雑誌の記事の延長の感覚なせいか、今ひとつの感じがするが、言っていることはけっこううなづけることが多い。日本人の残業に対する意識もそのひとつだ。
話はタイトルに戻って、労働生産性。つまり仕事に対するアウトプット÷インプット。ここでアウトプットに関しては、仕事の質とか量のアウトプットは個人や組織のレベルに大きく依存するのでここでは考えない。一方インプットについては日本人の特徴が大きく表れていると思う。
問題点: 日本人は同じアウトプットに対して時間をかけすぎる。
これを読んで別にいいじゃないか、と思った皆さん。そう、プロフェッショナルなら時間をかけてでも良い仕事をすべきと思っているんでしょう。でも自分の経験から考えてみると、一定以上の時間をいくらかけても質は上がらないんじゃないだろうか。ということは、仕事に無駄な時間をずいぶん費やしているのかもしれない。
原因1: 時間の投資に対する無意識
毎日残業だー、21時前に帰ったことなんてないー、という人。原因は簡単。仕事が多くても少なくても帰る時間は21時なんじゃないだろうか。最初からゴールは21時であり、そうなると人間は弱いもので、面倒な仕事は後に回す。夕方から仕方なくそれにとりかかり、19時を超えてきてオフィスがいつものメンバーになってくると、ダーっとやっつけ仕事でかたづける。これがもし18時でオフィスから締め出されると(トリンプのように)、毎日家に帰って3時間くらい残業をするのだろうか?たぶんしなくなるだろう。その分朝からフルパワーで、働くようになるんじゃないだろうか。やはり時間は有限だということをもっと意識すべきだ。
原因2: 長時間労働に対する美意識
同級生と会ったとき、自分はいつも定時に帰ると胸を張って言う人がいるだろうか。「いやーつまらない仕事だけど、誰もやる人がいないから自分がやらなくちゃなんなくて、毎日遅いよ」と満更でもなさそうに話したことはないか?日本人は会社への帰属意識が高く(依存心にもなりかねないが)、しかも労働は美徳という昔からの教えもあって、心のどこかで自分が仕事に多くの時間を費やしていることに喜びを感じているのではないだろうか。逆に早く帰るときは「すいませんが、お先に・・・」と謝ってしまう。この点、外国人は「え、まだ仕事終わっていないのか?」という顔をして帰っていく。これは大きな意識の差だ。
いずれにしても根は深い問題だが、明日から自分ひとりでできる解決策は何だろう?
解決策1: スピードをあげる
日本人の会社員に足りないのは時間ではなく、スピードだ。とはいえ、毎日21時まで働く人に、急にこれから毎日18時に帰るように言っても無理だろう。じゃあ、毎日昼間に10分でやっていることを7分で終わらせるように言ったらどうだろう。10分の電話を7分で済ませる。10分の話し合いを7分で切り上げる。10分かかっているメールを7分で送信する。それを積み重ねると全ての仕事を70%の時間で済ませることは十分可能じゃないだろうか。ただし毎日18時には頭がくらくらでクタクタになると思うけど。
さらにいうと、上で書いたように、そうやってやった仕事の質は、ゆっくりやった時とそんなに変わらないんじゃないだろうか。むしろアドレナリンが出ている分、ミスも少ないくらいかも。
ここでスピードを上げるといっても早口で話すとか、エクセルの手を動かすのが異常に早いとか、そんなことではなく、判断を速くすることが必要なんだと思う。判断して、手を動かして、できたと思ったら早く手離す。これをぐずぐずやっているから時間がかかるのだろう。
解決策2: 早く会社を出るためのモチベーションを作る
早く会社を出て、じゃあ何をするのか?何のために定時に帰らなければならないのか?何でもいいけど、会社と離れて平日にやるべきことがなければならない。でも日本人は平日は会社、土日は非会社(笑)という人が多い。どうしてだろう?
日本人は仕事は人生の一部と考える。最近ワークライフバランスという言葉がよく使われるが、ライフの中にワークがあって、そのバランス、というイメージか。これに対して欧米人は仕事は人生と別のものと考える。ワークライフバランス=全く別のものである仕事と私生活のバランス、だ。自分の元上司の外国人は、仕事はしょせんゲームだと言っていた。ゲームといっても遊びではなく、真剣勝負のゲームだ。もちろん人生を賭けるものではない、と。この話を一般的日本人の上司にしたときに「仕事をなめている」と言っていたのだが、客観的に見て「ゲーム」をしている外国人の方が、数段真剣に仕事に取り組んでいた・・・。
こういった深層心理というか、文化的背景があるので、日本人が早く会社を出て何かをしたい、というモチベーションを持つのはなかなか難しいと思う。まあ遊びに行くでも勉強するでも子供と遊ぶでも、何でもいいから平日、仕事以外に何か一生懸命になれるものを探したほうがいい。
解決策3: 会社も早く帰るインセンティブを与えるべき
最近どこの会社でも残業を減らそうとしている。ワークライフバランス・・・という便利な言葉ができたけど、要するに人件費削減だ。ただ削減というと減らすみたいだが、日本ではもともと労働に対してではなく、労働時間に対して賃金を支払ってきたものを、本来あるべき形に戻しているだけだと思う。残業を減らしたら心身ともに健康にいいと言われても、給料が減ってしまっては反発を受けるだけだ。上に書いたような意識改革をきちんとした上で、「ホワイトカラー・エグゼンプション」を導入するのは賛成だ。
最後にもうひとつ。外国の会社で、上司が部下に対して残業をするな、というのは筋が通っている。というのはポジションが上がれば上がるほど何でも知っていなければならないし、自分で仕事をするからだ。だから部下は納得する。例をあげると、自分の知っているグローバル企業のエグゼクティブは、夜どんな時間にCEOから電話がかかってきてもすぐに答えられるよう、枕元に自社製品のプロファイルを全て置いて寝ていると言っていた。そんな日本人の話は聞いたことがない。逆に日本の会社だと一番仕事を知っているのは担当者であり、そんな状況で上司が「じゃああとは明日の朝までに資料よろしく!でも残業はしないように」と言っても、部下は納得しないだろう。
うーん、会社全体でホワイトカラーの生産性をアップするというのは、非常に難しそうだ。でも自分の生産性だけはアップできるよう、毎日気をつけてみることにしよう。
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