トヨタと過労死
先週、2000年に30歳の若さで勤務中に突然死した方の妻が、彼の死を労災と認めず、遺族補償給付金を支給しなかった国を相手取って起こしていた裁判で、原告勝訴の判決が下された。たまたまNHKのニュースを見ていて少し詳しく取り上げていたのでこの事件のことを知ったが、またもや翌日以降新聞やニュースなどでもそれほどの記事にはならなかった。
ネット上でこの事件について検索してみると、この妻がこの事件について細かく語っているサイトがあった。ニュースでは、班長(EX職)に昇進してから残業が多くなった上、QC活動が労働時間として認められなかった、くらいしかなかったが、この方は自分の職務以外にも班長会の役員(土日に月1回役員会あり)、職場委員(昼休みにミーティングあり)、労働組合の委員など、様々な職務を背負っていたそうだ。死亡前の9ヶ月間は自己都合の有給休暇を全く取れなかったとのことで、最後の休暇(しかも半休)に子供を連れてレジャーランドに行ったのが、家族で遊びに行った最後のイベントになったとのこと。
1.豊田労働基準監督署は何をどう判断して労災ではないと判断したのか?
妻の話では死亡の直前1ヶ月の残業時間は144時間で、今回の裁判では106時間が超過勤務時間として認められたが、当時の労働基準監督署は45時間分しか認めなかったのだ。QCサークルが時間外なのはもちろん、直接ライン作業に向かっている以外の時間は「雑談」の時間ということだ。この認識の差は議論されないままで良いのだろうか?
2.トヨタ社員はどう思っているのか?
どこを見てもトヨタ社員の本当のコメントは見えてこない。会社への忠誠心で心の底から何とも思っていないのか。こんな会社でもやはり安定した大企業で、社員であることを誇りに思える会社なんだろうか?トヨタでは全員が月一回「創意工夫提案用紙」を提出することになっているそうだが、これは自主活動なので勤務時間内に書いてはいけないことになっている。そんな「トヨタ教」の教えを裁判でも堂々と主張してしまう会社に対しても、やはり力になりたいと思うんだろうか。「トヨタにお勤めですか、いいですね」と言われるのが誇りなのかな?仕事の割りに給料安いのに・・・
3.労働組合はいったい何をしているのか?
会社に対してモノを言い、労働者の権利を守るのが組合だとしたら、トヨタの組合は何をしているのだろうか。まあどこでも一緒で、会社の御用組合なんだろうか。労組が出世コースとか。自分が以前働いていたのも歴史ある「大企業」だが、組合の役員をやると、次に自分の希望通りの部署に行けるという不思議なルールがあったっけ。ためしに全トヨタ労働組合のページを見ると妙なことがあった。組合自体のWEBサイトはトヨタの関連会社のサーバー(Katch)を使っているのだが、この事件をバックアップする記事が載っている「組合のブログ」は外にリンクが張られていて、なぜかgooのサーバーを使っている。やはり会社の意に反することは会社関連のサイトでは書けないということの証かも。
4.これは特殊な事例なのか?
彼が生真面目な性格で、奇特にも仕事以外のもろもろの業務を一手に引き受けていただけなのか?それともこうした事例はよくある話で、仕組みの問題なのか。彼の場合は正社員でしかも班長職に引き立てられたのだから、そうはいっても一般社員や業務請負の社員、下請けからの「応援」社員よりも給料はもらっていたから、これくらいは働いても当然だ、という風潮なのだろうか。恐らく死なないまでもこうした労働問題はよくある話で、ニュースにはならなくてもいろいろあるんだろう。
5.マスコミがトヨタの問題点を報道しないのは、そろそろ問題にしなくて良いのか?
そしていつも話題に上がるのが、トヨタに対するマスコミの姿勢だ。昨年、北米トヨタ社長が秘書にセクハラをして200億円以上の訴訟を起こしたときも、小さな記事にしかならなかった。日経新聞にいたっては、AP電の短い記事を載せただけ。つまり「APで記事にしたからうちも一応記事にした」というスタンスを見せたということだ。(ちなみにその後もほとんど記事になっていないが、提訴から3ヶ月後にスピード和解し、和解内容は一切公になっていない)。その後昨年から今年にかけて、例年にない不良・リコールの問題が起きているのに、日本ではそれほど記事にならない。「品質のトヨタ」「トヨタの生産方式の秘密」みたいな本がいまだに出版されているが、海外の新聞や雑誌ではトヨタの車は品質に問題が多い、という扱いだ。そして最近見たんだけど、トヨタのフィリピンで、社員の親睦を深めるという活動の集会で、ストリップ嬢を呼んで大騒ぎし、「親睦を深めた」という事件があったらしい。これはマスコミもあまり触れていないんじゃないかな。
今回のこの判決も、日経では社会面の左上のあまり目がつかないところにさらりと載せられていた。しかもその日の「企業欄」でトヨタが環境面に配慮した事業をしているということで賞賛される記事が載っていた。日本の広告費のトップを占める大広告主様には、それくらいの配慮は当然ということか。
ひとつの突破口は、ここのところトヨタの批判本が結構出ているということ。先月でいうと「トヨタの闇」。もちろん新聞で宣伝広告は出ないけど、本屋ではけっこうヒラ積みになっている。こういうところから世論に影響すればいいけど、やはりテレビ、雑誌、新聞にはかなわないか。
今回の訴訟を伝えたNHKニュースのインタビューで、奥さんは「夫に何と言ってあげたいですか?」と聞かれて、気丈な笑顔でこう答えていた。
「ゆっくり休んでください、と言ってあげたいです。寝るときが一番幸せだ、といつも言っていたので。」
なんてせつない言葉だろう。家族と遊ぶときよりも、眠るときが幸せだなんて。自分は「寝るのがもったいないけど、翌日の仕事に影響するから仕方なく寝る」という感じだけど。人間には会社員、父親、夫、などいくつかの役割があって、それらのバランスが取れている、ということが大切なんだろうと改めて思いました。
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