キャノンの問題
めずらしくキャノンでちょっと問題となるニュースがあった。ゼネコンの鹿島が所得隠しをして、その使途不明金の一部から、キャノン大分工場建設工事を受注する際に仲介をしたコンサルタントに、受注金額の3%以上を支払ったということだ。キャノンにしてみるとまあ関係ない話なのだが、そのコンサルタントがキャノンの御手洗会長と懇意にしている人物ということで記事になった。しかも大分県知事が、そのコンサルタントには知事選で世話になり、彼の存在が鹿島の受注に影響した「かもしれない」と、コメントしたのだ。
ところで、キャノンってなんで大分に工場を作ったのか。地理的には有利とはいえないと思うが、キャノンは大分に3つ工場を持っている。そう、御手洗会長の出身地が大分なのだ(つまり先祖の創業者の出身地ということ)。キャノンといえば御手洗会長の厳しい経営で、福利厚生は大幅カットしたのに、一方で大分に豪華な保養所を作ったりしている。そんなちょっと不思議なキャノンについて調べてみた。
1.強固な財務基盤
昨日現在でキャノンの時価総額は7.8兆円。日本の株式市場で6位の金額になる。売上高が4.2兆円、営業利益が7200億円。つまり営業利益率が17%で、この種のメーカーとしてはちょっと異常なくらい高い収益性だ。
この高収益を支えているのはコピー・プリンター部門だが、秘密は(別に秘密じゃないけど)トナー、インク、カートリッジなどの消耗品にある。家庭用プリンターは1万円ちょっと出せば買えるのに、インクを何色か買うだけで5000円近くになってしまう。たかがインクごときで・・・と思うけど、安いものが売っていないので純正品を買うしかない。
そう、これがキャノンの営業利益を支える収益源だ。キャノン全社の原価率は50%くらいだが、この消耗品の原価率は10%程度というアナリストもいる。なぜ高い純正品しか売っていないかというと、このカートリッジが特許でガチガチに守られているためだ。インクの安定供給の仕組みや、インクを含んだスポンジを立てて壁を作る構造などがその特許で、これが参入障壁になって他社が参入できなくなっている。
2.厳しいコスト管理
御手洗会長の政策でよく見かけるのが人件費の圧縮だ。「成果主義」の導入、工場の夏休みの半減(以前は2週間あった)、寮・社宅の撤廃、フレックスの廃止などだ。偽装請負でもキャノンの名前が出たように、人事施策に関連するトラブルはけっこう多いように思う。
3.財界活動
経団連会長としての活動は、なんとなくキャノンのための活動に見えることが多い。例えば立ち消えになったが残業代を払わない「ホワイトカラー・エグゼンプション」はキャノンの考え方そのものだし、政治資金改正法は50%以上の株式を外国人が持っている「外資系」企業も政治献金をできるようにしたものだが、これでキャノンも政治献金ができるようになった。(キャノンの株主構成は過半数が外国人株主だ)
4.今後の問題
ファイナンス面では、この高収益を支える消耗品がビジネスとして成り立たなくなるリスクがある。安いカートリッジで特許を侵害しないものが出たり、大きな技術革新でカートリッジがいらないプリンターが出たり、などだ。また1兆円を超えるキャッシュ、4500億円分の自社株など、この過大な資産を株主にどう説明していくのかも大きな課題だと思う。
そしてちらほら伺える御手洗会長の強権政治。経団連会長とはいえ、筋の通らないことを続ければ足元をすくわれることになりかねない。今後のキャノンのニュースに注目したいと思う。
ところで、今回のブログは「キャノン」と書いているけどこれは誤り。正式表記は「キヤノン」でヤは大きいのです。これは見た目のバランスからそうしているそうで、他には「シヤチハタ」「キユーピー」などがあります。変換が面倒なので「キャノン」と書きました。気づきました??
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